石綿被害と労災保険給付の時効期間

 石綿(アスベスト)の健康被害については、昭和45年頃から新聞やテレビで報道され始め、現在では、医学的知見に照らして中皮腫や肺がん等の原因になるものと認められています。そして、業務上、石綿ばく露作業に従事したことが原因となってこれら健康被害を被った場合には、労災保険給付や特別遺族給付金の支給対象となります。このうち、特別遺族給付金は、労災保険給付上の遺族補償給付が時効消滅した場合に、当該遺族を救済するために特別に法律により認められた給付です。

 img_jitsumu_0055.jpgいずれの給付も時効期間がありますが、労災保険給付に関しては、いつから時効期間が進行するのかということが問題になります。民事損害賠償請求であれば、「損害及び加害者を知った時」(民法724条)から時効が進行するとされていますが、労災保険給付に関しては、「権利を行使することができる時」から進行するとされています。そして、労災保険給付を請求するためには、石綿の健康被害について認識可能となっている必要があることから、業務上石綿により健康被害を被ったということについて認識可能となった時点から、労災保険給付の時効期間が進行することになります。

 いつ頃から石綿健康被害を認識可能であったかということは、事案に応じて個別に検討することになるでしょう。一般的には、報道等で石綿被害が取り上げられるようになった時期や、阪神大震災直後に粉塵石綿の問題が大きく注目されるようになったといった事情に基づき判断することになります。また、症状が固定されたことを前提に支給される障害補償給付等に関しては、症状が固定したことについても認識可能となって初めて権利行使可能となるため、時効の進行を認めるためにはそのことの認識も必要となります。

 すでに社会的に石綿健康被害が広く知れ渡っている現状においては、たとえ業務上石綿被害を被っていたとしても、各種労災保険給付が時効消滅している可能性があります。遺族補償給付に関しては、石綿健康被害救済法により、時効消滅した場合の救済措置が認められていますが、それ以外の給付に関しては時効消滅に関して留意する必要があるでしょう。

 また、当然のことながら、石綿にさらされる業務に従事していたからといって、全ての中皮腫や肺がんについて業務上災害と認められるわけではありません。中皮腫に関しては石綿被害との関連性が強いものとされていますが、肺がんに関しては、喫煙など生活習慣も関係するため、業務上の傷病であるか否かについて十分に検討する必要があります。

 今後、石綿以外にも、たとえば放射能と発癌の関連性など、発病までに相当の期間がかかるような特殊な健康被害について、時効期間や業務起因性が問題となる可能性があるでしょう。放射能被害については、医学的知見も確定していないため、時効期間のみならず業務起因性に関しても様々な争いになることが予想されます。これから先、どのような問題が生じてくるのかということに注視していく必要があるでしょう。

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