性同一性障害と雇用上の配慮

 生物学的に男性であるLGBTの労働者に対して職場の女性トイレを自由に使用させることを命じた判決 (経済産業省事件 東京地裁(令和元年 12 月 12 日判決))が出されました。
 性同一性障害があり経済産業省に勤務する原告が、女性用トイレ使用に関する制限を設けないこと等を要求事項として人事院等に求めたところ、これを人事院等が受け容れなかったため、原告はその取消訴訟及び慰謝料等の国家賠償請求訴訟を提起した事案です。
 判決は次のとおりです。

 「真に自認する性別に対応するトイレの使用制限は重要な法的利益の制約に当たるところ、女性用トイレ使用のために性別適合手術を受けなければならないとすれば、身体への侵襲を受けることになる一面がある。 原告が性同一性障害で女性に危害を加えるおそれは低いと専門医師から診断を受けており、原告の外見や立ち振る舞い、女性用トイレの構造、性同一性障害の社会の捉え方の変化等からして、女性用トイレを原告が利用することでトラブルが生じる具体的なおそれはなかったとみられる。
 以上の女性用トイレの使用制限のほか、経産省担当者による原告の性自認を否定するような発言(「なかなか手術を受けないんだったら、もう男に戻ってはどうか」)は、国家賠償 法上違法と解されることから、国は原告に対し慰謝料 120 万円等の賠償義務を負う。」

 経済産業省としては、性適合手術を受ける段階にまで至っていなければ、トイレの使用について、LGBTの者に対して格別の配慮をすることはできないという対応をとっていました。
 たしかに、中には本当に性同一性障害であるのか、それとも単なる趣味・趣向の領域の話なのかわかりづらいケースがあることも事実ですが、やはり、診断書などの医学的根拠に基づいて相応の配慮を求められた場合には、その診断書の信用性を疑うような事情や、LGBTの者に対して格別の対応をすることにより無視できない業務上の支障が生じるといった事情がない限り、本人の自認する性に基づいた対応をする必要があると言えるでしょう。
 今後の審級での判断や類似した訴訟における判断も注目されますが、実務上本件はひとつのモデルケースとして参考になる裁判例になるものと考えられます。

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