2014/07/20 18:39
どこまでが業務上の災害に該当するか
労働者が事故により死傷病を負った場合、当該事故が業務上生じたものであれば、労災が成立することになります。「業務上の災害」とは、典型的には、事業場内で作業に従事しているときの災害のことを意味しますが、必ずしもこれに限られるものではありません。たとえば、事業場内で休憩しているときの災害や、始業前・終業後の事業場内における災害も、「業務上の災害」に該当します。また、出張等、事業場外で労働しているときの災害も該当することになります。
問題となるのは、これらの他に、たとえば宴会等といった場面における事故が、「業務上の災害」に該当するかという点です。もちろん、プライベートな宴会における事故は業務上の災害に該当しませんが、仕事上の付き合い、打ち上げ等における飲み会で発生した事故については、なお検討の必要があるといえます。
このような宴会の席における事故については、最近ニュース等でも話題になった事件として、渋谷労働基準監督署長事件があります。これは、中国ロケでの宴会の場での飲酒行為によって、嘔吐・窒息死したことが業務上の死亡に当たるとされた例です。死亡した被災者は、映像制作を業とする会社に雇用され、照明、音声などの担当者として業務に従事しており、NHKのスタッフと共に、中国ロケのため約10日間の予定で中国へ赴きました。中国では、中国共産党の委員を招き、NHKスタッフ主催により中締め会を行い、レストランにおいてビール等の飲酒を伴う食事をした後、今度は別の店で、当該中国共産党の委員主催により返礼の宴会が開かれ、白酒(パイチュウ)というアルコール度数の高い酒が出され、被災者等はこれを複数杯飲みました。そして、被災者は、宿泊先のホテルの自室において、吐しゃ物を気管に逆流させて窒息死したという事案です。
判決は、中国ロケの重要な目的である飛行場の撮影許可を得る窓口である中国共産党の要人との親睦を深める絶好の機会であったため、勧められるままに乾杯に応じざるを得ない状況にあったと認定しました。そして、2次会合における「乾杯」に伴う飲酒は業務の遂行上必要不可欠であり、同飲酒に伴う死亡は、業務上の事故であるとしています。
本件は、宴会の場における飲酒による事故について、業務上の事故と認定されたという点のみがクローズアップされ、大きな話題となっていましたが、業務上と認定された理由としては、上記のとおり、本件特有の事情の存在が挙げられます。会社関係者の人と飲んでいたことに伴う事故が、全て業務上の事故に該当するというわけではないことに注意が必要です。特に、業務上・外の判断を行なうにあたっては、業務上飲まざるを得ないといえるような状況にあったのか否かという点が重要になるものと考えられます。