定年後再雇用時の労働条件

多くの企業において、定年後再雇用時に、定年以前と比べて賃金水準が低下するという制度運用がなされています。労働政策研究・研修機構(JILPT)が6,187社を対象に調査した結果によれば、60歳直前の賃金水準を100とした場合、61歳時点の賃金水準が80%未満となる企業数は約45%に及んでいます(「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」平成28年5月)。


img_jitsumu_0056.jpg定年後の賃金水準の低下に対しては、国から一定の範囲で補助金も支給されるため、再雇用後に賃金水準が低下すること自体は、法秩序の下で是認されているものと考えられます。ただし、定年前後で業務の内容や人材活用の仕組み等に変更がないにもかかわらず、賃金水準のみが低下することまで適法と認められるかどうかはいまだ争いのあるところです。

平成25年4月1日に施行された改正労働契約法の第20条では、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を禁止しています。そこで、同改正法の施行を受け、近年は、定年後に有期契約労働者として再雇用された場合に、定年前の正社員だった頃と比較して賃金水準が低下することが、同条に違反するのではないかということを争点にした紛争が多数提起される事態となっています。

同改正20条が施行される以前は、無期契約と有期契約の労働条件の不合理な差を禁止する明文の規定は存在しませんでしたが、同改正20条が施行されたことにより、同法違反を理由とした紛争が複数生じており、今後も同種の争いが増えるものと考えられます(パートタイム労働者に関しては、パートタイム労働法8条や9条において、均衡待遇の原則や不合理な労働条件の差異に関する禁止規定が存在するが、パートではないフルタイムの有期契約労働者に関してはこれまでは同種の規定がなかった)。

そのような中、近似東京地裁において、定年後再雇用時の賃金水準と労働契約法20条違反の成否に関する裁判所の判断が示されました。長澤運輸事件(東京地判平28.5.13)です。

同事件で会社は、定年後の賃金水準に関して、有期契約であることを理由に下げているのではなく、定年後再雇用であることを理由に下げている(したがって、定年後に無期契約で再雇用したとしても賃金水準は低下していた)のであり、「期間の定めがあることにより」(労働契約法20条)労働条件に差異を設けていたものではないから、同条の適用はないと主張していましたが、裁判所は、期間の定めがあることを理由にしていなかったとしても、形式的に無期と有期で労働条件に差異があれば、同条の適用はあり得ると判示しました。

その上で、「職務内容並びに当該職務内容及び配置の変更範囲が同一であるにもかかわらず、賃金額について有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り不合理である」と判示し、結論として、当該事件における定年前後の労働条件の差異を不合意で違法なものとしました。

この判決に対しては様々な評価が存在しているところであり、定年前後で業務内容や人材活用の仕組みに何ら変更がないにもかかわらず賃金水準が大きく低下することは原則として不合理と評価されるべきという意見もあれば、定年後再雇用は、いわば国の年金政策を会社が肩代わりしているものであり、もともと入社時点では61歳以降の雇用は保障されておらず期待権も存在しなかったのだから、定年後再雇用時の労働条件設定については企業の広汎な裁量が認められてしかるべきである等といった意見もあります。

同事件は今後高裁で争われる予定であり、まだ予断を許しませんが、企業としては、業務内容や配置転換の有無・範囲等といった人材活用の仕組みが全く同一であるにもかかわらず、労働条件に差異を設けているような場合には違法と評価される可能性があることに留意し、定年後再雇用を含めた有期契約労働者の制度設計を行うよう心がけた方が良いものと考えられます。

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