セクハラの加害者と目された者から使用者に対する抗議

セクハラの申告があった場合、使用者としては事実関係を確認した上で、その事実に基づき必要な人事措置や再発防止策を講じることが義務付けられていますが、ときには加害者とされた者から使用者の行った調査手法や人事措置について抗議がなされることがあります。

甲社事件(東京地裁令和2年3月27日判決)では、東京都議会において女性議員が質疑の最中に「自分が早く結婚したらいいじゃないか」などという趣旨のヤジを受けたとしてその当否が問題になった件について、原告が同僚の女性A(49歳)に対して「Aさん、都議会であのような問題が起きたけれど、ああいうことを言うのはまずいよね」などと話しかけたところ、女性Aは未婚で子どももいない自分をあえて名指しにしたセクハラ発言であるとして会社に被害を申告し、その後会社の事後対応が不適切であったとして原告が会社を訴えました。

申告を受けた会社人事部は原告に対してヒアリングを実施し、原告は上記発言を認め、自己の不用意な発言を詫び、謝罪や始末書の提出にも任意に応じる旨の意向を示しました。そこで、人事部同席のもと謝罪の場が設けられましたが、その場で女性Aが怒りをあらわにしたこともあり、原告は、本件は腹いせのセクハラ申告であり、会社による厳格な調査もないままに加害者として扱われたと主張するに至りました。その後原告はメンタルで休職し、休職期間満了により退職しています。

判決は、「事柄の性質上、重大な事案とも目されなかった本件」について、原告が発言を認めて謝罪の意向を示していた以上、使用者が謝罪の場を設けたことについて問題はなく、また、これ以上の調査を行わなかったことについて不合理な点があったとはいえないとし、使用者の対応に問題はなかったと認定して原告の請求を棄却しました。

本件では行為者が不適切な発言を認めている以上、謝罪の場を設けること等に問題はないでしょう。一方、発言を認めずに争っているような事案では、使用者の対応はより困難になります。
本件判決では、当該発言がセクハラに該当するかどうかという認定はなされておらず、使用者としても懲戒処分は検討していませんでした。
そのため、発言内容がセクハラに該当するか否かは微妙な事案であったのかもしれません。
しかし、重要なことは、そもそもセクハラに該当するか否か以前に、相手の気持ちを考えないこのような不用意な発言をしないということであり、このような発言をしていながら会社を訴えてきていることは逆恨みとしかいいようがなかったものと思われます。

弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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