事業場外みなし労働時間制とは

img_jistumu_0093.jpg事業場外労働についてみなし労働時間制を適用している企業は多いと思われますが、実際に訴訟になっているケースも多々あり、みなし制度には紛争リスクが内在していることから、運用については慎重を期す必要があります。

事業場外みなし労働時間制に関する先例として有名なものとして、阪急トラベルサポート事件(最二小判平26・1・24)があります。同事件では、募集型の企画海外旅行の派遣添乗員について事業場外みなし労働時間制の適用が否定されました。しかし、この事例判断は、他の事業場外労働にも広く一般的に当てはまるものとはいえません。募集型の企画海外旅行であるため、顧客と会社との間でスケジュール内容が契約上合意されており、派遣添乗員の裁量でそのスケジュールを大きく左右することはできません。仮にスケジュールが変更になる場合は、当然会社にも連絡がありますし、そのような変更の事実があったことは会社としても容易に把握可能といえます。したがって、事業場外であったとしても、労働時間を算定することは可能でした。

この理は、たとえば訪問介護の働き方等にも当てはまるものと考えられます。訪問介護も、何時から何時までどこの客先で介護サービスを行うかということが顧客と会社との間で契約上合意されており、仮にそのスケジュールが変更になる場合、会社はその変更の事実を容易に把握することができますので、労働時間は算定可能といえます。介護に限らず訪問型のサービスでは広く同様の理が当てはまるのではないかと考えられます。

一方で、営業職のように、どの客先をいつ訪問し、どの程度の時間営業活動を行うかという点について、特段拘束がなく当該労働者の裁量に委ねられているようなケースでは、労働時間の算定は困難になるでしょう。

営業職に対する事業場外みなし労働時間制の適用の可否が争われた事案としては、ナック事件(東京高判平30・6・21)が参考になります。

同事件では、「一審原告が従事していた業務は、事業場(支店)から外出して顧客の元を訪問して、商品の購入を勧誘するいわゆる営業活動であり、その態様は、訪問スケジュールを策定して、事前に顧客に連絡を取って訪問して商品の説明と勧誘をし、成約、不成約のいかんにかかわらず、その結果を報告するというものである。訪問のスケジュールは、チームを構成する一審原告を含む営業担当社員が内勤社員とともに決め、スケジュール管理ソフトに入力して職員間で共有化されていたが、個々の訪問スケジュールを上司が指示することはなく、上司がスケジュールをいちいち確認することもなく、訪問の回数や時間も一審原告ら営業担当社員の裁量的な判断に委ねられていた。個々の訪問が終わると、内勤社員の携帯電話の電子メールや電話で結果を報告したりしていたが、その結果がその都度上司に報告されるというものでもなかった。帰社後は出張報告書を作成することになっていたが、出張報告書の内容は極めて簡易なもので、訪問状況を具体的に報告するものではなかった。上司が一審原告を含む営業担当社員に業務の予定やスケジュールの変更について個別的な指示をすることもあったが、その頻度はそれ程多いわけではなく、上司が一審原告の報告の内容を確認することもなかった。

そうすると、一審原告が従事する業務は、事業場外の顧客の元を訪問して、商品の説明や販売契約の勧誘をするというものであって、顧客の選定、訪問の場所及び日時のスケジュールの設定及び管理が営業担当社員の裁量的な判断に委ねられており、上司が決定したり、事前にこれを把握して、個別に指示したりすることはなく、訪問後の出張報告も極めて簡易な内容であって、その都度具体的な内容の報告を求めるというものではなかったというのであるから、一審原告が従事していた業務に関して、使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することは困難であったと認めるのが相当である。」とされ、スケジュール内容が共有されていたり、携帯電話や電子メールで業務報告が行われていたりしたとしても、それによって労働時間が算定可能になることはないと明確に判示されています。

このように、事業場外における労働時間配分について、労働者にどの程度の裁量が認められているかということが、みなし労働時間制の適用の可否を考えるにあたっては重要になるものと考えられます。

派遣添乗員に関する最高裁判例が示されてから、事業場外みなし労働時間制の適用を躊躇する傾向も一部企業で見受けられましたが、判決文を精査し、その後の裁判例の状況も踏まえた上で、各社の実情に応じて適切であるならば、事業場外みなし労働時間制の適用を躊躇する必要はないでしょう。過去の知識にとどまらず、正確に裁判実務の現状を把握した上で、適切な労務管理を行うことの必要性が高まっています。

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