第141回 会社法改正により完全子会社化の新手法が創設 ~スピーディかつ低コストのキャッシュ・アウト制度の誕生~

今月のキーワード ―2014年9月―
公認会計士 太田達也


■キャッシュ・アウトとは


現金を対価として少数株主を会社から退出させることをキャッシュ・アウトといいます。持株割合が100%でない子会社を100%子会社化する場合、少数株主を退出させる必要が生じます。個々の少数株主から株式を買い取ることも考えられますが、少数株主が一定数の場合には手続が煩瑣ですし、そもそも売却に反対する株主が1人でもいたら、100%子会社化できないという問題も生じ得ます。


■今まで用いられていた手法


会社法創設のときに、企業組織再編における対価の柔軟化に係る改正が行われましたので、金銭交付型の株式交換または交付金合併が可能となりました。金銭交付型の株式交換を用いれば、完全子会社となる会社の少数株主に現金を交付することにより、100%子会社化が可能です。しかし、企業組織再編税制における対価要件を満たさないため、税務上は非適格株式交換になります。完全子会社となる会社に対して時価評価課税が行われることになりますので、今までほとんど利用されていません。

また、株式併合を用いることにより、少数株主の保有する株式を1株に満たない株式にすることにより、株主の地位から退出させる方法もありますが、会社法の規定が十分整備されていない点、情報開示の規定が不十分である点などを理由に、ほとんど利用されていませんでした。

従来は、全部取得条項付種類株式を用いる方法が利用されていました。すなわち、全部取得条項付種類株式に係る定款の定めを新設し(会社法108条2項7号、466条、309条2項11号)、全部取得条項付種類株式を取得し(会社法171条1項、309条2項3号)、端数株式の売却代金を少数株主に交付する方法であり、これにより完全子会社となる会社に対する時価評価課税の問題も回避してきました。ただし、株主総会の特別決議が必要であるため、時間とコストがかかるという点がデメリットでした。


■「特別支配株主の株式等売渡請求」の創設


会社法の改正(平成26年6月27日公布)により、キャッシュ・アウトを行うための新たな手法として「特別支配株主の株式等売渡請求」が創設されました。

総株主の議決権の90%(これを上回る割合を定款で定めた場合は、その割合)以上を直接または完全子会社等を通じて間接に保有する株主(以下、「特別支配株主」という)が存する株式会社(以下、「対象会社」という)において、特別支配株主がその他の株主の有する対象会社の株式すべてを現金対価により当該特別支配株主に売り渡すことを請求できるものとされました(会社法179条1項)。

この株式等売渡請求の制度により、株主総会決議を要することなく、現金を対価として少数株主から株式を強制的に買い取ることが可能となります。この手法により、スピーディかつ低コストでの100%子会社化が可能となります。

なお、特別支配株主は会社だけに限らず、個人も対象です。また、対象会社には、非公開会社も含まれます。オーナー会社において、自身の持株割合を100%化するような活用のされ方も考えられます。


■各手法の比較


キャッシュ・アウトの各手法の比較

特別支配株主による株式等売渡請求(創設) 全部取得条項付種類株式の取得 株式の併合 金銭交付型略式組織再編
株主総会の決議 不要 必要 必要 不要
税務上の取扱い

・売渡株主(=譲渡株主)の株式譲渡損益認識

・対象会社への時価評価課税なし

・譲渡株主の株式譲渡損益認識

・対象会社への時価評価課税なし

・端数株主の株式譲渡損益認識

・対象会社への時価評価課税なし

・譲渡株主の株式譲渡損益認識

・対象会社への時価評価課税あり(非適格組織再編のため)



株式等売渡請求は、税務上の観点からみると、全部取得条項付種類株式の取得および株式併合と同様となりますが、株主総会の決議が不要である点、特別支配株主の完全子会社を対象会社の株主として残すことが可能となる点(注)、新株予約権・新株予約権付社債のキャッシュ・アウトが可能である点、以上の点で一定のメリットがあると考えられます。

(注)特別支配株主は、その完全子法人に対して株式売渡請求をしないこととするときは、その旨および当該完全子法人の名称を定めて、対象会社に対する通知事項にそれを含める必要があります(会社法179条の2第1項1号、179条の3第1項)。

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