労災の打ち切り補償と解雇

img_jitsumu_0021_01.jpg労災により休業している労働者に対する解雇は、原則として禁止されています(労基法19条1項)。

例外は3つあり、①症状が固定して30日経過した場合、②使用者が打ち切り補償を支払った場合、③天災等により事業の継続が不可能となった場合、には解雇が可能です。この中では①と②が重要で、特に②に関しては解釈に争いがあり、現在裁判においても争われています。

①の症状固定とは、完治を意味しているものではなく、これ以上症状に改善の見込みがないということであれば、症状固定に該当することになります。

②の打ち切り補償とは、労基法81条が定める「第75条の規定によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合においては、使用者は、平均賃金の1,200日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」という打ち切り補償のことを意味します。ここでは、「第75条の規定によって補償を受ける労働者」の解釈が問題となります。

「第75条の規定」とは、使用者の療養補償義務を定めた規定です。この療養補償給付は、現在、労災保険によって賄われており、使用者は保険料を納めることで、国から代わって療養補償の給付がなされるという制度設計になっています。そして、これを受けて労基法84条は、労災保険として療養補償給付がなされた場合、その限度において、使用者は補償の責任を免れる旨を規定しています。

このような制度設計を前提にすると、使用者が療養補償給付を行っていなくても、労災保険からその給付がなされていれば、「第75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当し、使用者は、打ち切り補償を支払うことで解雇制限を免れることが可能なのではないかという問題が生じます。

img_jitsumu_0021_02.jpgこのことが争われた事件に、専修大学事件(東京高判平25.7.10)があります。同事件では、地裁、高裁判決のいずれも、「第75条の規定によって補償を受ける労働者」とは、使用者が自ら療養補償を支給している場合のみを意味し、労災保険によって給付が賄われている場合は同要件に該当しないと判示しました。したがって、労災保険によって療養補償給付が支払われている場合、使用者は、労働者に対して打ち切り補償に相当する金額を支払ったとしても解雇できないことになります。
判決がこのように判示した理由は、業務に起因するといういわば使用者側の事情により災害に遭い、療養を余儀なくされている状況の者で、かつ回復の見込みもあり、保険給付により補償が賄われているのであれば、使用者としても、その者の雇用はできるだけ維持するようにすべきであり、それでも解雇するのであれば、たんに打ち切り補償を支払うのみでは足りず、療養補償も自ら負担しなければならない、という点にあります。

この判決に対しては、学者や実務家からの批判も多く、今後の最高裁の動向も見守る必要がありますが、このような判断が下されていることにも留意しながら、労災により休業中の者に対する解雇は慎重に検討する必要があるでしょう。

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