組合と組合員との内部トラブル

 組合は、団体交渉等といった労働争議を行うことを主たる目的としている団体ですので、組合と会社との紛争は多数あります。しかし、事案によっては、組合と組合員との間の内部トラブルが訴訟等へ発展することがあります。トラブルの内容は、主として報酬の取り分に関するものです。

 img_jitsumu_0001_01.jpg今回は、そのような取り分に関する争いについて、結論が分かれた裁判例を2つ紹介します。

 一つ目は、会社を解雇された従業員7名が合同労組に加入し、団体交渉および労働委員会におけるあっせん手続きを経て、会社と当該合同労組との間で、会社が組合に対して1,500万円の解決金を支払うという和解が成立したところ、組合が組合員に対して、これまで組合員が支払った組合費34万円のほかに、カンパとして解決金の15%の支払いを求めたという事案です(名古屋管理職ユニオン事件)。

 組合の規約上、解決金の15%を組合に納める旨の定めはありませんでした。組合は、交渉途中で、組合員に対して一方的に、「金銭解決の場合、組合加入によって加算された金額の15%のカンパをお願いする」という文書を差し入れていたのですが、判決は、その内容について組合員が同意したと認めることはできないとして、組合の請求を棄却しました。

 また、判決は、解決金の15%をカンパとして要求することについて、実質的な成功報酬として15%も得ることは高額に過ぎ、弁護士法72条の趣旨に反し、公序良俗に反して許されないとしています。15%のカンパが高額に過ぎるのかという点は、様々な意見があり得るところですが、裁判所はこのように判断しています。

 二つ目は、解雇された従業員が、解雇前に加入していた労働組合の指導、助言に基づき、紹介された弁護士に依頼して、会社に対して地位確認等請求訴訟を提起し、控訴審において、会社が当該従業員に対して710万円の解決金を支払う旨の和解が成立したところ、組合が組合員たる当該従業員に対して、組合規約の「7.組合員は労働争議により勝ち取った慰謝料及び未払い賃金・和解金・解決金等の10%を活動資金として当ユニオンに拠出する義務を負う」という規定に基づき、解決金710万円の10%の支払いを求めたという事案です(新世紀ユニオン事件)。

 同事件では、団体交渉や労働委員会の手続きは行われておらず、はじめから、組合員と会社とが裁判上で争っており、組合は助言・指導していたにとどまりました。そこで、組合員は、上記組合規約に記載された「労働争議により勝ち取った」に該当しないとして争いました。

 しかし、判決は、規約に記された「労働争議」とは、組合と会社間の集団的労使紛争に限らず、会社と従業員間の個別紛争も含まれており、また、組合の助言・指導の下で組合員が会社との面談・交渉を行っていたと認められること等からすれば、組合員は組合に対して、組合規約に従って解決金の10%を支払うべきと判示しました。

 

 名古屋管理職ユニオン事件では、15%は高額過ぎて公序良俗に反するとされていますが、新世紀ユニオン事件では、10%の取り分について、特に公序良俗に反するとの判断はなされていません。その点で、両判決には若干の温度差があるようにも見受けられます。

 

 組合と組合員との信頼関係が築かれていれば、このような紛争は通常発生しません。その意味では、法的争点以外の部分に本質的な問題があるのではないかとも考えられます。いずれにしても、会社としては、このような紛争に巻き込まれることがないように、解決金の支払先はきちんと和解合意書の中で定めておくべきでしょう。

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