第179回 法人成りと使用人退職金および役員退職金の取扱い

今月のキーワード ―2017年11月―
公認会計士 太田達也

■個人事業当時から雇用している使用人が法人成り後に退職した場合の取扱い
従来個人事業であった事業をそのまま法人成りしたとします。また、個人事業当時に雇用していた使用人が引き続き法人成り後も使用人として勤務していたとします。その使用人が退職した場合に支払う退職金については、個人事業当時から引き続き在職する使用人が法人成り後相当期間経過後に退職するときは、個人事業当時の勤続年数を通算して退職給与を支払うことが認められています(法人税基本通達9-2-39、国税庁タックスアンサーNo.5220参照)。
本来は、個人事業当時からの使用人に対する退職金は、原則として個人事業当時の勤続年数分は個人事業主の必要経費になり、法人成り後の勤続年数分は法人の損金の額に算入されるべきものです。しかし、その退職が法人成り後相当の期間が経過した後である場合は、例外として通算して損金の額に算入することが認められる取扱いです。法人成り後相当の期間を経過しない段階で退職した使用人がいる場合は、個人事業当時の退職金も含めて通算して支給したとしても、個人事業当時の退職金については、更正の請求により個人事業主の必要経費として認めてもらう対応になると考えられます。
この場合の相当の期間について法令や通達が直接記述していない点が実務上問題になります。更正の請求ができる期間が5年であることから、法人成り後5年または6年程度経過している場合は、相当の期間になるという意見もみられます。ただし、根拠が直接的にあるものではありませんので、慎重に取り扱ってください。

■退職所得の計算
退職所得の計算については、個人事業当時の勤続年数を含めて退職金の額を計算することが退職給与規程等において明らかとなっている場合に、勤続年数の通算が認められます(国税庁質疑応答事例「個人事業当時の期間を通算して退職給与を支給する場合の勤続年数」ご参照)。すなわち、退職給与規程等に個人事業当時からの期間を含めた勤続年数を基礎として退職金を計算する旨が定められており、それに従って計算した退職金を支払うのであれば、原則として、個人事業当時の勤続年数を含めて勤続年数を計算することができるとされています。
退職給与規程等により、退職金の支払額の計算の基礎とする期間が、法人成りしてからの期間によるものとされている場合には、個人事業当時の勤続年数との通算は認められませんので、法人成りするときは、退職給与規程等にどのように定めるかについて、留意する必要があります。

■個人事業主および事業専従者が法人成り後退職した場合の取扱い
上記で説明した内容は、使用人に関するものであり、個人事業主および事業専従者には基本的に当てはまりません。個人事業主および事業専従者であった者については、個人事業当時の在籍期間を勤続年数に含めることはできないとされています(福島地裁H4.10.19、裁決H20.11.21 )。また、所得税の計算における勤続年数についても、あくまでも法人設立の日から退職するまでの期間が勤続年数となるので、個人事業当時の在籍期間を通算することはできません。
個人事業主と事業専従者については、個人事業当時の退職金を必要経費とすることができないことから、当然の取扱いと言えます。