いよいよ迫る!「同一労働同一賃金」施行へ ~派遣社員の賃金額変更の注意点~

img_onepoint_0082_01.jpg今年も早いもので11月になりました。来年の準備もそろそろ始めなければならないのですが、労働法関連につきましては、いよいよ未知の時代ともいえる「同一労働同一賃金」の時代に突入します。この同一労働同一賃金の中で今、特に対応が迫られている「派遣業」について今回は取り上げてみたいと思います。


派遣元は賃金額の見直しを迫られる

同一労働同一賃金は、今年4月から本格的に始動した働き方改革の第二弾として「パートタイム・有期雇用労働法」が大企業は来年の春、2020年4月(中小企業は1年後)から施行されます。この動きと同じくして「労働者派遣法」が会社規模に関係なく一律に来年4月から改正施行されます。以前、5月にもこのコーナーで取り上げましたが、同一労働同一賃金は、非正規という言葉を一掃し、いわゆる正規社員と非正規社員との間の「不合理な待遇の差」をなくすことを目的としていますが、派遣業の場合、「派遣先の社員の基準に合わせる(派遣先均等・均衡方式)」か、または「(派遣元での)労使協定方式」のいずれかを選択しなければならなくなりました。これは派遣元においては「自社の派遣社員の賃金額を変えなければならない」という状況になるため、世間では、にわかに「これは大変だ」という事態になっているのです。

「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」か

今回の派遣法改正について派遣元は「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」かのいずれかを選択しなければならないのですが、多くの派遣元は後者の「労使協定方式」を採用するだろうと言われています。
それは「派遣先均等・均衡方式」の場合、派遣社員が派遣される会社が変わるたびに派遣先の賃金水準に合わせなければならないという手間がかかるほか、派遣先も「なるべく自社の賃金データは開示したくない」という事情などがあるからです。では「労使協定方式」ならば楽かといえば、ことはそう簡単ではありません。

「労使協定方式」における賃金の決定と問題点

労使協定については、過半数労働組合又は過半数代表者(過半数労働組合がない場合に限る)と派遣元事業主との間で一定の事項(①派遣労働者の範囲、②賃金の決定方法、③職務の内容、成果、等を公正に評価した賃金決定、④待遇の決定方法、⑤段階的・計画的な教育訓練の実施、⑥その他の事項)を定めた労使協定を書面で締結し、労使協定で定めた事項を遵守しているときは、教育訓練と福利厚生の待遇を除き、この労使協定に基づき待遇が決定されるというものです。

問題は、この協定における賃金の決定については、「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であるもの」と定められているため、派遣元が勝手に自社の基準で賃金を決めることは許されないという点です。この一般的賃金については「賃金構造基本統計調査」と「職業安定業務統計」に基づく2種類の職種別賃金の一覧から使用するものを協定で選択・使用することになりますが、職種別だけでなく、「能力・経験調整指数」と「地域指数」も加味しなければないため、派遣社員ごとの照合だけでも結構な手間がかかります。ちなみにこの一般的賃金は、基本給、手当、賞与、を時給単価で算出する他、通勤手当(定額支給の場合)や退職金についても加味しなければなりません。さらに労使協定を締結した派遣元は、毎年度、6月30日までに提出する事業報告書に労使協定を添付しなければならない他、インターネットにもUPしなければなりませんので、いい加減な対応は許されません。

教育訓練と福利厚生も均等・均衡に

Img_onepoint_0082_02.jpgのサムネイル画像上記のように労使協定方式を採用した場合でも「教育訓練」と「福利厚生」については派遣先より派遣元に情報を提供し、派遣元は均等・均衡を確保する必要があります。また、福利厚生のうち給食施設、休憩室及び更衣室の福利厚生施設について派遣先は派遣社員にも公平に利用させなければなりません。



懸念される「逆ザヤ」現象の発生

派遣先は派遣元に対して労使協定方式の場合は「教育訓練」と「福利厚生」、派遣先均等方式の場合はこれらに加えて「職務内容」や「賃金」等の情報を提供しなければならず、提供がなかった場合、派遣元は派遣先に対して労働者派遣契約を締結してはならないこととされています。また、派遣元は派遣先均等方式か労使協定方式かの情報等を通知しなければなりません(ちなみに派遣元は派遣社員から派遣先労働者との間の待遇の相違の内容及び理由等について求められた場合、説明する義務があります)。

そして最大の問題は、労使協定方式を選択した場合でも、「派遣元は派遣社員の賃金額を一般賃金以上にしなければならない」ということです。これは場合によっては現在の派遣で得る料金よりも派遣社員に支払う賃金の方が高くなる「逆ザヤ」現象が発生することも想定されます。この事態に対して現行のガイドラインでは派遣先に「配慮しなければならない」という少し曖昧な表現をしており、施行までにこの内容が変わらないということも断定はできません。したがって今後は法改正施行まで情報収集を進めつつ、派遣元と派遣先の担当者が「よく話し合ってトラブルが起きないよう十分に配慮しながら調整していく」ことが必要になるでしょう。

<厚生労働省サイト内の関連資料ページ>
・厚生労働省 参考HP 「派遣労働者の同一労働同一賃金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

・労使協定方式Q&A(第2集)2019.11.1公表
https://www.mhlw.go.jp/content/rk2.pdf

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