労働協約による過去の賃金債権の処分 ~労組との合意があれば賃金の支払いを破棄できるのか~

労働組合が組合員の賃金債権を不利益に変更することの可否

img_jitsumu_0095.jpgのサムネイル画像労働組合と締結した労働協約によって、組合員の過去の賃金債権を不利益に変更することが可能かという問題は、従来あまりきちんと議論が整理されていない状況にありました。
会社の経営が困難な状況に陥った場合に、労働組合と交渉し、労働協約を締結することで賃金減額を行うという手続きは広く行われています。その場合に、特定の組合員を特段に不利益に扱うなどということがない限り、労働協約の効力は問題なく認められるものと考えられており、そのような労働協約の効力にも限界があり得るという議論は、あまり十分に認識されていませんでした。

最高裁は否定

今平尾事件(最高裁平成31年4月25日第一小法廷判決)において、この点の問題点が整理されました。
同事件では会社が経営難に陥ったことから、労働組合と合意し、賃金の一部の支払いを延期し、その後経営難が立て直せなかったことから、最終的には、支払い延期の対象となった労働者の所属する部門が閉鎖することになった際に、支払いを延期していた賃金について、会社と労働組合の合意で放棄することとしたという事案です。
高裁判決は、同放棄の効力を認めましたが、最高裁は、これを否定しました。また、最高裁は、賃金の支払延期についても、過去分については労働協約の効力を否定しました。
その理由は、組合員からの特別の授権がない限り、過去の賃金債権を不利益に変更することはできないというものです(正確には、放棄の合意については、そもそも組合内での意思決定手続が不明であったため、労働協約として成立しているのかという点自体が不明ではありましたが、その点に関する議論は割愛します。)。
これまでも、労働協約の一般的拘束力(「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。」という効力のことを指す。これにより、労働協約の効力が組合員以外にも拡張適用されることになる。)については、過去の賃金債権を不利益に変更するには特別の授権が必要であるとした最高裁判決が存在していましたが、上記平尾事件の最高裁判決により、この理が労働協約の規範的効力(組合員を拘束する効力)についても当てはまることが明確化されました。

労働協約で賃金減額ができるとは限らないと明文化

平尾事件の最高裁判決により、「過去の賃金債権を不利益に変更する場合には、当該労働者からの特別の授権が必要である」という原則が明確化されましたので、実務上は重要と考えられます。
労働組合と労働協約を締結すれば賃金減額が実現できるとは限らないので、使用者側としては、仮に過去の賃金債権について交渉するのであれば、交渉にあたって、個々の労働者から労働組合に対して、特別な授権が行われているか、委任状等の有無について十分に確認する必要があるでしょう。

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