第204回 欠損等法人に係る繰越欠損金の制限 ~繰越欠損金等を有する法人の買収は要注意~

■繰越欠損金等を利用する目的で他の企業を買収した場合の制限
繰越欠損金を有する法人や含み損のある資産を有する法人(以下、「欠損等法人」)を買収し、収益性のある事業をその法人に移転したり、収益性のある他の法人と合併したりすることにより、課税所得を圧縮する行為、すなわち繰越欠損金等を利用する目的で他の企業を買収した場合で、一定の事由に該当するときは、繰越欠損金の引継ぎ・使用や資産の譲渡等損失の損金算入を制限する措置が設けられています(法人税法57条の2)。繰越欠損金や含み損を有する法人の買収は要注意といえます。これは外部から繰越欠損金を有する企業を買収して、自社の課税所得と相殺することを主目的とする行為に対して制限を課すことをその趣旨としているものです。

■欠損等法人とは
「欠損等法人」とは、以下の要件を両方とも満たすものをいいます。

・特定の株主によって50%を超える株式等を直接または間接に保有(特定支配関係)されることとなった法人
・特定支配関係が生じた日(以下、「特定支配日」)の属する事業年度において、前事業年度から繰り越された未使用の繰越欠損金または含み損のある一定の資産を有する法人

特定支配日から5年以内に事業内容に著しい変化を生じる一定の事由(以下、「適用事由」)が生じた場合に、「繰越欠損金の繰越控除不適用」および「資産の譲渡等損失額の損金不算入」の制限が課されます。ここで、主な適用事由は、次のとおりです。

① 欠損等法人が休業法人である場合に、特定支配日以後に事業を開始すること
② 欠損等法人が特定支配日直前において営む事業(以下、「旧事業」)のすべてを特定支配日以後に廃止する、もしくは廃止見込みがある場合に、旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れまたは出資により金銭その他の資産の受入れ(以下、「資金借入れ等」)を行うこと
③ 特定の株主または特定の株主の関連者が欠損等法人に対する特定債権1を取得した場合において、旧事業の規模のおおむね5倍を超える資金借入れ等を行うこと
④ 欠損等法人が以下のいずれかに該当する場合において、欠損等法人を被合併法人とする適格合併を行う、または欠損等法人(特定株主と完全支配関係があるものに限る)の残余財産が確定すること
・欠損等法人が特定支配日直前において事業を営んでいない場合
・欠損等法人が旧事業のすべてを特定支配日以後に廃止し、または廃止することが見込まれている場合
・特定の株主または特定の株主の関連者が欠損等法人に対する特定債権を取得している場合
⑤ 特定支配関係を有することになったことに基因して、欠損等法人の特定支配日直前の特定役員のすべてが退任し、かつ、特定支配関係を有することになったことに基因して、特定支配日直前において欠損等法人の業務に従事する使用人のおおむね20%以上が退職した場合で、かつ、非従事事業(特定支配日直前において欠損等法人の業務に従事する使用人が従事しない事業)の事業規模が旧事業の事業規模のおおむね5倍を超えることとなること

1特定債権とは、欠損当法人に対する債権で、その取得の対価の額がその債権の額(額面金額)の50%未満の場合で、かつ、その取得した債権が取得のときにおける欠損等法人の債務の総額の50%超である場合のその債権をいいます(法人税法施行令113条の2第17項)。


■制限対象となる欠損金の範囲

1. 繰越欠損金の繰越控除不適用
欠損等法人の買収後5年以内に、上記に掲げる適用事由が生じた場合には、その適用事由が生じた日の属する事業年度以後の各事業年度において、その適用事由が生じた事業年度前の各事業年度に発生した繰越欠損金を使用することはできません。 通常の繰越欠損金の引継ぎ制限・使用制限(法法57条3項、4項)は、支配関係が生じた日の属する事業年度前の各事業年度に生じた繰越欠損金について制限がかかりますが、本制限措置は適用事由が生じた事業年度前の各事業年度に発生した繰越欠損金について制限がかかる点で、より厳しい取扱いといえます。

2. 資産の譲渡等損失の損金算入制限
欠損等法人が、特定支配日において有する含み損のある一定の資産について、適用事業年度開始の日から3年を経過する日(または特定支配日から5年を経過する日のいずれか早い日)までの間に、一定の資産を譲渡、評価替え、貸倒れ、除却等したことにより発生した損失は損金の額に算入されません。


■制度のねらい

本制度は、欠損金を有する法人を買収した上でその法人に事業を移し、当該法人が買収前から有していた繰越欠損金を利用して課税所得の圧縮を図るといった租税回避行為を防止する目的で講じられたものと考えられます。
なお、このような他社を買収することによる租税回避行為は、繰越欠損金の利用だけではなく、被買収会社の有する資産の含み損を利用することによっても可能となることから、被買収会社の含み損を実現した場合に関しても、その損金算入について一定の制限が設けられているわけです。すなわち、上述の適用事由が生じた事業年度開始の日から3年を経過する日と、特定支配日から5年を経過する日のいずれか早い日までの期間において生ずる、特定資産の譲渡等による欠損等法人の損失の額は、その欠損等法人の損金の額に算入しないこととされています(法人税法60条の3)。

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