2018/12/10 9:00
短期前払費用の特例とは、1年以内の前払費用について支払った事業年度での損金算入を認める特例だそうですが、実務で適用する際に注意することはありますか。
短期前払費用に関する取扱いは、法人税基本通達2-2-14に次のように定められています。
法人税基本通達2-2-14(短期の前払費用) 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。 (注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。 |
短期前払費用の特例が適用できるのは、①役務の提供を受けるために支出した費用に限られている点、②支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものに限られている点、に注意が必要です。
1.特例が適用される費用の範囲
短期前払費用の特例が適用できるのは、「役務の提供を受けるために支出した費用」とされています。したがって、資産の譲渡のために支出したものは、この特例の適用を受けることができません。短期前払費用の特例が「適用できる費用」と「適用できない費用」の主なものは次のとおりです。
適用できる費用 | 適用できない費用 |
① 土地や建物の賃料 ② システムのリース料 ③ 保険料 ④ 雑誌の年間購読料(電子版) |
① 雑誌の年間購読料 (電子版を除く) |
2.役務の提供を受ける時期
短期前払費用の特例は、「支払日から1年以内に提供を受ける役務に係るもの」に適用が限られています。この点について、次のケーススタディで留意点を確認してみたいと思います。
ケーススタディ
① 建物に係る賃貸借契約:契約期間10年
賃料:月額10万円・毎月月末に翌月分の賃料を支払う
⇒ 特例の適用あり(費用の種類、役務の提供時期ともに通達の要件を満たすため)
② 建物に係る賃貸借契約:契約期間10年
賃料:月額10万円・毎年3月末に1年分(4月から翌年3月)の賃料120万円を支払う
⇒ 特例の適用あり(費用の種類、役務の提供時期ともに通達の要件を満たすため)
③ 建物に係る賃貸借契約:契約期間10年
賃料:月額10万円・毎年2月末に1年分(4月から翌年3月)の賃料120万円を支払う
⇒ 特例の適用なし
<理由> 役務の提供時期(4月から翌年3月)が、支払時(毎年2月末)から1年を超えるため特例の対象とならない
この特例は、短期の前払費用の処理について、収益と費用の厳密な期間対応による繰延処理をせず、支払った時点で費用計上するという企業会計上の重要性の原則に基づく経理処理を税務上も認めるものです。したがって、「利益が出そうだから今期だけまとめて1年分支払おう」といった利益操作のための支出など、課税上の弊害が生ずると認められるものについては、上記の要件に該当するものでも税務調査で否認される恐れがありますので注意が必要です。
本誌関連ページ
特集 消費税率引上げ対策ポイント総チェック(第8回)適用税率の原則(3)
No.3535(平成30年12月10日号)21頁