仮眠時間と労働時間

1 労働時間の定義

 img_jitsumu_49.jpg通常の就労時間以外の時間について、労働時間該当性が問題となって残業代を請求されるという例があります。たとえば、着替えの時間、後片付けの時間、仮眠時間、宅直時間などです。そもそも、賃金支払いの対象となる労基法上の労働時間とは、判例・行政解釈によれば、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」と定義されています。「指揮命令下」に置かれているとは、仮眠中に警報や電話への対応を義務付けられている場合や、業務前・後に着替えや準備が義務付けられている場合などがこれに該当するものと考えられています。

2 仮眠時間の労働時間該当性

 仮眠時間の労働時間該当性が争われた先例としては、大星ビル管理事件(最判平14.・2・28)があります。判決は、「不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。」とし、具体的な事案につき、「本件仮眠時間についてみるに、前記事実関係によれば、上告人らは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。したがって、上告人らは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めて被上告人の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。」と結論付けています。

 仮眠時間では、通常、何らかの対応が必要になった場合には業務に従事することが義務付けられていることが多いものと考えられます。したがって、上記判決が例外事由としている「その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情」がない限り、仮眠時間は労働時間に該当していると認定される可能性が高いといえます。

 しかし、この例外事由に該当するものと認めた判決として、ビソー工業事件(仙台高判平25・2・13)があります。同事件では、仮眠時間の労働時間該当性が争点となりましたが、判決は、①仮眠時間中に実作業に従事した件数は、1人あたり年1件にも満たず、その大半は仮眠時間前の作業が多少食い込んだ場合か、あるいはほどなく仮眠時間に入る他の警備員に配慮して早めに仮眠時間を切り上げた場合であること、②仮眠時間を中断して実作業にあたったとみられる4件のうち3件は地震または火事といった突発的災害によるもので、そのうち1件は時間外手当が支給されていることといった事情に照らして、仮眠時間は労働時間に該当しないとしました。

 同事件では、勤務形態が日勤、当務(24時間勤務)、夜勤、駐車場管理の4つであり、警備員ら自身が作成したローテーションに従って各警備員が勤務していました。そして、仮眠時間は4時間でしたが、その時間帯においても、最低2名が業務に従事し、それ以外の者が仮眠するという複数人体制が採られていました。

 このように、仮眠時間を労働時間から除外するためには、複数人体制にすることが重要になるものと考えられます。そして、主として業務に従事する者を決め、それ以外の者は仮眠し、極めて稀な突発的な事態が生じて、かつヘルプが必要な場合にのみ、仮眠者も対応するといったような複数人体制を確立していれば、仮眠時間が労働時間と認定されるリスクは減るものと考えられます。

3 仮眠時間中の賃金

 仮眠時間に対する賃金をいくらと定めるかは、契約内容に従うことになります。したがって、通常の就労時間と同様の賃金水準を支払わなければならないわけではありません。労働時間の密度等も考慮した上で、通常の労働時間よりも少ない額を手当として定め、それを支給するという扱いでも問題はありません。

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