第268回 遊休資産の減価償却に係る会計と税務

2025年4月1日

 

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遊休資産の減価償却に係る会計と税務の取扱いの相違

特定の事業を廃止または休止するなどにより、事業の用に供されていない資産、いわゆる遊休資産が生じるケースがあります。遊休資産の減価償却の取扱いが、会計と税務で異なる点に留意する必要があります。

第1に、会計上は、遊休資産であっても、減価償却を行う必要があります。減損処理をしたかどうかにかかわらず、減価償却を行う必要がある点に留意する必要があります(「減損会計に係る会計基準の適用指針」56項)。会計上そのように取り扱われるのは、自然減耗、経済的陳腐化等による減価が生じていると考えられるからです。

一方、税務上は、事業の用に供されていない資産については、原則として、償却費の損金算入は認められません(法令13条括弧書き)。事業の用に供されていることが、償却費の損金算入が認められる要件になります。

 

■申告調整の方法

遊休資産について会計上償却費を計上した場合、税務上は損金不算入とする必要があるため、法人税申告書別表4で「償却超過額」として加算調整し、別表5(1)の「利益積立金額の計算に関する明細書」に増加を記載し、期末金額の箇所に調整を残すことになります。また、別表16(1)または別表16(2)の償却費の明細書において、償却超過額の記載を行い、翌事業年度に繰り越す記載も必要になります。

 

 設 例 遊休資産に係る申告調整

前提条件

当社の事業所の閉鎖に伴い、機械装置A(定率法適用資産)が不稼働になりました。再稼働の見通しもなく、いつでも稼働し得る状態にもなっていません。

当期の会計上の減価償却費 500

会計上の減価償却費を自己否認するものとして、申告調整方法を示してください。

 

解 答

以下の各別表に、次のように記載します。なお、別表16(2)の記載については、償却超過額に関連のある部分のみ示し、他の欄の記載は省略するものとします。

 

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

 区 分 総 額 処 分
留 保 社外流出
当期利益または当期欠損の額 配当
その他
加算 償却超過額 500 500
減算

 

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
 区 分 期首現在利益積立金額 当期の増減 差引翌期首現在利益積立金額
①-②+③
利益準備金
積 立 金
機械装置(償却超過額) 500 500

 

別表十六(二)

(略)
当期償却額 500

償却不足額
償却超過額 500

前期からの繰越額 0
当期損金認容額 償却不足によるもの
積立金取崩しによるもの
差引合計翌期への繰越額 500

 

なお、翌事業年度以降について、通常であれば前期から繰り越された償却超過額は「償却費として損金経理した金額」として取り扱われますから、償却限度額相当額については認容されますが、翌事業年度以降も遊休状態である場合は、償却限度額はゼロということになり、税務上の認容はありません。会計上償却費を計上しているときは、それについての加算調整がまた必要になります。

 

■稼働休止資産の取扱い

税務上、休止期間中必要な維持補修が行われており、いつでも稼動し得る状態にあるものは減価償却資産として取り扱われます(法基通7-1-3)。これを「稼働休止資産」といいます。「減価償却資産として取り扱われる」ということは、償却費の損金算入が認められるという意味です。

新型コロナウイルス感染症が発生・拡大したときに、緊急事態宣言の発令下において、稼働を休止した資産が生じましたが、いつでも稼働し得る状態にあるという前提の下で、稼働休止資産に該当すると判断されたものがかなりあったものと思われます。

逆に、いつでも稼動し得る状態になっていないものは、税務上、減価償却資産として取り扱われず、償却費の損金算入は認められないことになります。

 

 

 

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