売買契約締結後に売主が負担する土壌改良費の取扱い
2025年6月24日
売買契約締結後に売主が負担する土壌改良費の取扱い
[質問]
工場用地として使用していた土地を売却しました。
譲渡の確認書に「売主は、買主の費用負担において実施される土壌汚染に協力する。調査の結果、土壌改良が必要となった場合の費用は、売主の負担となるが、支払方法は、売却代金の残金から相殺する。土壌改良費用が3,000万円を超える場合は、売主と買主で協議する」となっています。
土壌改良費用は3,740万円かかることになり、協議をされることなく3,740万円が残代金から引かれました。
この土壌改良費を譲渡費用として良いでしょうか。
[回答]
1 譲渡費用とは
土地等の譲渡所得の金額は、譲渡所得に係る総収入金額からその譲渡所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額を控除して計算するとされています(所法33③)。
この譲渡費用の範囲については、所得税法基本通達33-7《譲渡費用の範囲》に例示的に掲げられており、仲介手数料、運搬費、登記費用など譲渡のために直接要した費用のほか、借家人等の立退料、土地等の上にある建物等の取り壊し費用など資産の譲渡価額を増加させるために支出した費用も譲渡費用に該当するとされています。
ただし、同通達の本文には「法第33条第3項に規定する「資産の譲渡に要した費用」とは、資産の譲渡に係る次に掲げる費用(取得費とされるものを除く。)をいう。」と定めていますので、譲渡に際して支出した費用であっても資産の取得費とされるものについては、譲渡費用としてではなく、譲渡資産の取得費として控除することになります。
2 土壌改良費の譲渡費用等の該当性
所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》は、「譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は…その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする。」と定めています。そうであれば、ご質問の土壌改良費については、たとえその支払いが売却の要件であったとしても、土地の改良費に該当するものである限り、譲渡所得の計算上の取得費に該当するものと考えられます。
しかしながら、資産の取得費とは、①取得に要した金額(購入代金+業務供用日までに支出した付随費用)、②設備費(取得後において資産の量的改善に要した費用)、③改良費(取得後において資産の質的改善に要した費用)の合計額であると考えられますので、売買契約締結後に売主が土壌改良費用を負担した場合、それを売主の取得費とすることには疑問が生じるところです。
また、譲渡の確認書に「売主は、買主の費用負担において実施される土壌汚染に協力する。」という文言があるとのことですので、この土壌改良費用を売主が負担した場合、この費用は当該譲渡物件の取得費にも譲渡費用にも当たらないと考えることもできます。
したがって、ご質物の売買契約締結後の売主が負担した土壌改良費用は、売主の取得費や譲渡費用にならないものと考えますが、この費用は売買代金の残代金から差し引かれていることから、当該工場用地の土壌汚染という瑕疵により売買代金の変更があり、代金の一部を返還したものと考えることができます。
この場合の譲渡収入金額については、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》の規定を適用して、値引き後の売買価額(売買金額から3,740万を差し引いた金額)により譲渡所得の計算を行っても差し支えないと考えます。
(税理士懇話会・資産税研究会事例より)