【同一労働同一賃金調査と現在の動き】
| 働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第36回

2025年12月23日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
ほぼ1年前、本コラムの第24回で「同一労働同一賃金」について取り上げました。その実現に向けた動きは着実に進んでおり、最近は調査に入られたとの声も複数聞かれるようになりました。そこで今回は最近の「同一労働同一賃金」に関する調査の状況と行政の動きについて取り上げます。
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同一労働同一賃金調査と現在の動き
「同一労働同一賃金と実態」
同一労働同一賃金とは、いわゆる正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(有期雇用労働者とパートタイム労働者、派遣労働者も含む)との間の不合理な待遇差の解消を目的とした制度です(詳細は第24回も参照)。多くの企業で正社員と非正規社員との間で給与面や賞与、福利厚生等において不合理な待遇差が生じており、非正規社員の実力発揮や生活面でマイナスとなっている実態が背景にあります。
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出典:厚生労働省「非正規雇用の現状と課題」(2025.3.19更新分)より抜粋
上記の図のように、正社員に比べて非正規社員の給与額が低いことがわかります。これらを解消するためにガイドラインが設けられ、パートタイム・有期雇用労働法(2021年4月1日全面施行)、労働者派遣法(2020年4月施行)で順守が定められています。
行政調査の状況
同一労働同一賃金が企業において守られているかどうかの調査については、これまであまり行われてきませんでした。理由の一つとして所管が労働基準監督署ではなく労働局であることがあげられます。労働局は都道府県に1つしかなく、企業を回れる実働部隊が存在しないからです。
そのため、これまでは傘下の労働基準監督署が調査を行った際に付随して軽易な調査を行い、その結果を労働局に回送するスタイルが一般的でした。ところが、今年になってパートタイム・有期雇用労働法の施行5年を契機に、セレクトした企業を労働局に出頭させ、そこで担当官が直接確認するという集合調査が実施されています。
行政調査の内容と結果
労働局での調査内容では以下のような項目があります。
*都道府県により違いあり
A)事業場の概要(正社員と非正規社員の各人数)
B)非正規社員の職種と人数
C)正社員と非正規社員の職務内容の差【下記参考】
D)業務に伴う責任の差
E)転勤・職務内容の変更の有無
F)基本給、手当の差
G)賞与・手当の差
H)待遇差についての説明状況
I)非正規社員への更新の上限説明 等
<参考例>
| 正社員と業務内容が近いパート・有期社員 | 業務内容が近い正社員 | |||||||
| 職種名 | 所定労働時間 | 業務内容(主要なものに〇) | 所定労働時間 | 業務内容(主要なものに〇) | ||||
|
販売
|
30時間
|
1 | 〇 | 接客 |
40時間
|
1 | 接客 | |
| 2 | 〇 | レジ | 2 | レジ | ||||
| 3 | 〇 | 品出し | 3 | 〇 | 売り場レイアウト | |||
| 4 | 〇 | 商品の陳列 | 4 | 〇 | 発注、在庫管理 | |||
| 5 | 清掃 | 5 | 〇 | クレーム対応 | ||||
上記の項目について「均等待遇」「均衡待遇」の視点で調査が実施されます。なお、今回は実態調査と相談対応が狙いということで、ガイドラインと照らして問題があった場合でも是正等は行われなかったようです。
さらに、労働局の調査ということで一部では「ハラスメント対応状況」の調査(ハラスメント関連は労働基準監督署ではなく労働局の所管)も併せて行われており、
A)事業主の方針明確化と周知
B)相談窓口の設置・対応状況
C)事後の迅速かつ適切な対応
D)マタハラ原因の解消措置
等が調査項目にあげられています。
審議会での動き
同一労働同一賃金は令和8年度法改正の審議項目に含まれています。現在、厚生労働省労働政策審議会職業安定分科会 雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会において「同一労働同一賃金ガイドライン」の見直し等が議論されています。
同部会の資料によれば、パートタイム・有期雇用労働法の改正施行によって「不本意な正規雇用」は減少傾向にあり、企業による待遇差(基本給、賞与、賞与等)の改善がみられるものの、依然として不完全であり、「待遇差の不合理性を誰が立証するのか」「待遇差の説明を一律雇入れ時に行うべきなのでは」といった議論がなされているようです。
まとめ
今後企業には、「待遇差の更なる改善」と「各種制度化」が求められることが予想されます。賃金制度、評価制度、見直しの流れにも影響する動きとなりますので、企業担当者、労働者ともに今後の動きに注視していきましょう。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。
















