【同一労働同一賃金の今とやるべきこと】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第24回
2024年12月25日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
令和6年12月2日に「健康保険証新規発行終了」が実施され、令和7年4月1日には「育児介護休業法改正対応」など、最近は労務管理に関する対応が目白押しです。
しかし、ここにきて一時期大きな脚光を浴びていた「同一労働同一賃金(以下、一部を「同一同一」とします)」に関する行政調査が復活傾向にあります。この同一同一対策は「簡単にできるものではない」だけに、この動きは隠れた脅威ともいえる存在です。そこで今回は「同一労働同一賃金の今とやるべきこと」というテーマでお届けします。
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【同一労働同一賃金の今とやるべきこと】
そもそも同一労働同一賃金とは
簡単におさらいをしますと、「同一労働同一賃金」とは、同じ企業で働く「正規労働者(正社員)」と「非正規労働者(有期雇用、パートタイマー、派遣)」との間で不合理な待遇差をなくすということを目的とした制度です。我が国では人口減少に歯止めがかからず、労働力が今後も不足する傾向にあり、これを改善するための一つの方策として、非正規の方にも実力発揮をしていただくための「納得が得られる待遇や評価」を企業で実現してもらわなければならないということになったことによるものです。
これまでの経緯と今
上記の通り、正規労働者と非正規労働者の不合理な待遇の差の改善を実現するために、「パートタイム・有期雇用労働法」や「労働者派遣法」など法律改正まで行われたのですが、この歩みは予期しない新型コロナで止まってしまいます。そのため長らく調査も手控えられていましたが、近年、行政が再び本腰を入れはじめています。
この背景には、厚生労働省が「令和6年度地方労働行政運営方針」を策定したことがあります。その中に「同一労働同一賃金の遵守の徹底」という項目があり、【労働基準監督署による定期監督等で、同一労働同一賃金に関する確認を行い、非正規労働者の待遇等の状況について企業から情報提供を受け、(労働局の)雇均部又は安定部等による効率的な報告徴収又は指導監督を行い、是正指導の実効性を高めるとともに、基本給・賞与について正社員との待遇差がある理由の説明が不十分な企業に対し、労働基準監督署から点検要請を集中的に実施することや、支援策の周知を行うことにより、企業の自主的な取組を促すことで、同一労働同一賃金の遵守徹底を図る】と記載されています。これを受け、実際に各労働局では調査が行われているのです。
<イメージ図>
厚生労働省(大元の運営方針) → 各都道府県労働局(自局の方針) → 傘下「労働基準監督署」実施
*同一同一は労働局が推進していますが、労働局自体には実働部隊が存在しないため、傘下の「労働基準監督署の定期監査の実施の際に合わせて調査を行う」とされています。
点検内容の実際
<労働基準監督署からの点検報告書イメージ>
対応策
上記のような点検報告書の作成指導が「来る、来ない」に関わらず、会社は対策をしておく必要があります。手順例としては下記が考えられます。
【1】点検…基本給、各手当、賞与等について正規と非正規労働者の比較
【2】就業規則や賃金体系の見直し…可能な範囲での是正。不可能な場合の対策検討 【3】待遇差説明書の準備・作成 |
まず【1】の点検についてですが、簡単なのは正規と非正規全員の給与明細一覧をプリントアウトし、正規にあって非正規にない手当を抽出。その上で「なぜ非正規にないのか」の客観的かつ合理的な理由がなければ【2】の就業規則や賃金規程の見直し対象です。説明がつかなければ廃止もあり得ます。基本給は「月給か時給か」の比較だけでは不足です。月給者は月給額を所定労働時間で割り、時間単価を出した上で時給者と比較しなければなりません。その上で、合理的な説明が困難であれば、点検報告書にもある「業務内容や責任の程度」を検証、必要に応じて正規と非正規の「職務記述書」等を作成、説明材料とします。
<簡単な職務記述書例(飲食業)>
非正規(パート等) | ・接客業務(案内、配膳、レジ)・清掃 |
正規(正社員) | ・接客業務(上記+クレーム対応、)・予約管理・スタッフ調整・売上管理・清掃チェック |
上記が整備できた段階で【3】「待遇差説明書」を作成することになります。
「待遇差説明書」については、「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」(厚生労働省)等にモデル様式が記載されていますが、労働局によってはWordファイルを提供しているところもあります(例:奈良労働局ホームページ)。
まとめ
同一労働同一賃金の実現は実際にはかなり大変です。上記「対応策」では簡潔に記載しましたが、例えば手当の廃止などは既存対象者の不利益にも配慮した対応が必要ですし、製造業のライン職など「職務内容が正規も非正規もまったく同じ」場合もあることでしょう。今回のような行政の調査や非正規からの説明が求められる前に、検証と見直しをされておくことをお勧めいたします。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。
