マタハラ事件控訴審判決

 女性が、妊娠中の軽易業務への転換を請求した際、業務を軽減するとともに、副主任職を解いて降格とした措置の適法性が争われた事件において、最高裁の判断を受けた後の差戻審判決(広島高等裁判所平成27年11月7日判決)が出されました。

 img_jitsumu_0051.jpgまず前提として、最高裁が示した判断枠組みですが、「女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項(均等法9条3項:筆者注)の禁止する取扱いに当たる」とした上で、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、または、業務上の必要性、降格措置による有利・不利な影響の内容等に照らして、均等法の趣旨・目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情がある場合には、同法の禁止する不利益取扱いに該当しないとしています。

 その上で差戻審判決は、まず自由な意思に基づく承諾の有無につき、「進んであるいは心から納得して副主任免除を受け容れたものということはできない」ことや、育児休暇終了後に副主任に復帰できるか否かについて明確な説明がなされていなかったこと等に鑑みれば、承諾を自由意思だと認定する合理的な理由が客観的に存在するとまではいえない、としました。

 次に、特段の事情の有無について、使用者側は次のように主張していました。すなわち、すでに職場内に主任がいるため、主任と副主任を併存させると指揮命令系統が混乱し、医療現場に危険をもたらすおそれがあることから、原告を副主任で復職させることができないと主張していました。しかし、判決は、主任は副主任を経て任命されるのが通常であり、役職としても主任と副主任ではその地位に自ずと序列があることからすると、具体的に指揮命令系統にどのような混乱が生じる危険があるか不明であるとして、使用者側の主張を排斥しています。また、このほかに使用者は、原告の資質・能力に照らせば、副主任としての適格性に問題があると主張していました。しかし、判決は、詳細な事実認定に基づきこの主張を排斥しています。

 同事件の原告の能力・資質に関しては、次のような事実が認定されていました。

 原告が加盟している生協労組は、原告を副主任に戻せとの要求を正式決議機関で承認しようとしましたが、賛成が過半数に達せず、理事会への提出を断念しており、その背景には、原告が所属していた2つの職場から、「賛成、反対を聞かないでほしい」と指示を拒否される状況にあったとの事実が認定されています。また、原告が教育係を担当した2名は、原告の部下に対する態度を見て、原告の下では働けないとの思いを強くし、原告がリハビリ科に復帰するのであれば退職する旨を主任に対して申し出ていたとの事実が認定されています。

 これらの事実は、原告が職責者としての適格性を欠いているのではないかと推認させるに足る事情のようにも思われます。しかし、仮にそうであれば、使用者としては、そのような問題を認識した時点で、注意・指導を行う、あるいはただちに副主任の役職を解くなどの人事措置を行っておくべきといえるでしょう。そのような対応をせず、漫然と放置しておきながら、本人が妊娠し軽易業務への転換を請求したことを契機として降格処分を行うことは、タイミングとして適切とはいい難く、裁判所の判断が厳しい方向へ傾くのもやむを得ない面があると考えられます。

 企業としては、たとえ能力や資質に問題のある労働者であったとしても、普段の人事対応をしっかりと行っておくべきことは別論、妊娠・出産・育児を契機として何らかの不利益処分を検討することは控える方が良いでしょう。問題社員であったとしても、タイミング的に疑問視されるおそれがあります。

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