不更新条項について

更新上限を設けることの有効性については以前博報堂事件を例に解説しましたが、同事件と異なり、不更新条項の存在を根拠の一つとして雇止めの効力を認めた裁判例として、日本通運事件(東京地判令2.10.1)があります。

同事件では、平成24年6月1日から有期雇用契約を締結していたところ、平成26年4月30日、平成25年4月1日施行の無期転換権を踏まえて、平成26年6月1日を基準日として定め、同日時点で勤続3年未満の者については最長で平成30年3月末までの更新条項を設けることにしました(以下このような更新上限の取扱いを「運用基準」といいます。)。

判決は、会社が運用基準について説明していなかったこと、労働者側も異議を留めるメールを送信していたこと等から、自由な意思に基づく同意があったとは認められないとして、不更新条項について合意の効力そのものは否定しました。

一方、雇止めの効力については、当該労働者の雇用契約は、会社がA社の商品配送業務を受注する限りにおいて継続する性質のものであったところ、その受注ができなくなったこと、複数回の面談において不更新条項の説明を受けていたこと等から、雇用継続に対する合理的期待が生じる余地はなかったとして、雇止め法理の適用は否定し、雇止め有効と判断しました。

博報堂の事件との違いは、まず勤続年数の違いが指摘できます。博報堂の事件では、1年契約が29回にもわたって更新されていたという点で、雇用継続に対する期待が非常に高かったといえます。

契約途中から更新上限を設けるということは、会社としても難しい判断を迫られるところではありますが、特定の基準日を設けて、勤続3年未満であるか否かで線引きをした日本有運の対応は、ひとつの参考になるものと考えられます。

無期転換に関する法改正からすでに相当な期間が経過しているので、すでに対応を済ませている会社が多いと思われますが、本件のような過渡期の事案と異なり、仮にこれから対応を始めるという会社であれば、更新上限を設けるのは新規に採用する有期雇用労働者からとするのが無難でしょう。

弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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