副業・兼業は原則として本人の自由~副業・兼業に関するガイドラインが令和2年9月に改定されました

 朝晩はようやく涼しくなってきました。本来であれば秋を思う存分楽しむべきところですが、今年は依然として新型コロナの懸念がありますので、引き続き予防と対策は続けていただきたいと思います。さて、今回は今後大きな影響が出そうな副業・兼業に関するガイドライン(令和2年9月改定)について取り上げます。

ガイドラインが策定された背
 我が国では働き方改革の1つとして「副業兼業の推進に向けたガイドライン策定やモデル就業規則改定などの環境整備」がうたわれており、今回ガイドラインは厚生労働省が平成30年1月に策定したものの改定版という位置付けになります。新型コロナによる収入減が発端となっているわけではありません。

副業・兼業のメリット
 ガイドラインでは副業・兼業に関するメリットとして、労働者側は【①スキル・経験によるキャリア形成、②自己実現の追及、③所得の増加、④将来の企業・転職に向けた準備】、会社側は【①従業員が社内では得られない知識・スキルを獲得、②自立性・自主性の促進、③優秀な人材の流失防止、④事業機会の拡大】がそれぞれ得られるとしています。兼業・副業は一般的には「収入の増加」に目が行きがちと思われますが、厚生労働省としてはキャリア形成や事業機会の拡大など、大きな視点でとらえていることがわかります。

副業・兼業の制限は限定的
 新ガイドラインでは基本的な考え方として過去の裁判例を踏まえ、原則として副業・兼業を認める方向とするのが適当であり、副業・兼業を制限することが許されるのは、例として①労務提供上の支障がある場合、②業務上の秘密が漏洩する場合、③競業により自社の利益が害される場合、④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、に限るとしています。精査して①から④に該当しないのであれば、会社は希望に応じて副業・兼業を認めていくべきでしょう。

会社に求められること
 
副業・兼業を運用する場合、会社側(双方)として求められることは主に以下の内容です。

A 副業・兼業先での業務内容等の把握
B 副業・兼業先での労働時間
C 上記Bに基づいた労働時間の通算と残業代の支給
D 副業・兼業者の健康管理
E 副業・兼業者の労災保険給付、雇用保険加入(令和4年1月以降の65歳以上)等

 上記A~Eの中で気になるのがCの「労働時間の通算と残業代の支給」ではないでしょうか。ご存知のように労働基準法では原則として1日の労働時間が8時間を超える場合には36協定の締結届出と残業代を支給しなければなりません。これが今後は自社分だけでなく副業・兼業先の状況も加味して対応しなければならないということです。

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 上記の例ではA会社で6時間働いている労働者が、B会社で2時間、新たな労働契約を締結して労働を開始したという想定です。この場合、A会社、B会社、それぞれでは6時間と2時間ですので36協定対象外で残業代割増も発生しませんが、B会社で2時間残業をした場合、労働者はすでに1日8時間労働をしてしまっていますので、B会社は2時間分の割増賃金を支払わなければならず、36協定の対象にもなります(ガイドラインの労働時間を通算する根拠は以下→労働基準法第38条第1項、労働基準局長通達 昭和23.5.14付基発769号)。

会社がとるべき手段
 上記のように自社で残業代を払うか否かなどを正しく把握するには、従業員から副業・兼業先での勤怠状況を報告してもらうことが必要不可欠です。手段としては副業・兼業開始前に「申請書」を提出していただくほか、「定期的な報告」が必要になります。そしてこの他に「副業・兼業規程」を制定し、運用していくべきでしょう。

(副業・兼業開始前会社に)申請書提出
         ↓
      確認・承認
         ↓
    (開始後)定期報告
         
    必要があれば残業代支給

注意点
 1日の労働時間が通算されるのは一般労働者の場合であり、他社でフリーランスなどの請負として働く場合や管理監督者の場合には労働時間は通算されません。また、今回のガイドラインの改定で現行の労働基準法で労働時間は通算されるということが明確になりましたので、現段階でも労働時間を通算して法定労働時間を超過した場合は残業代を支払わなければなりません。会社担当者の方はくれぐれもご注意ください。


 (参考)
 副業・兼業に関するガイドライン(令和2
年9月改定)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

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