問題社員対応とマタハラと境界線

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マタハラに関する事件のリーディングケースとしては、平成26年の最高裁判決が有名です。同事件では、副主任として勤務していた理学療法士が妊娠中に軽減業務へ転換し、それに伴い副主任の職を解かれたことについて、たとえ同意があったとしても違法な不利益取扱いに該当すると判示されており、同判決を契機に、その後もマタハラ案件については労働者寄りの判断が多数なされているのが現状です。


このコラムでも最高裁判例を含めそれら裁判例をいくつか取り上げましたが、昨年(平成29年)7月3日に新たに、育児休業取得後の解雇について、不利益取扱いに該当し無効とした裁判例が一事例として追加されました。

育児休業を取得したことを主たる理由として解雇したのであれば、不利益取扱いに該当することは明らかであるため当然に無効ですが、判決まで争っていることからも分かるとおり、そのような単純な事案ではなく、会社としては、それ以外に十分な理由があるものとして解雇に踏み切ったものです。

同事件では、解雇された労働者は、休業の申請以前から問題行動を繰り返しており、面談を行った産業医からも、「パーソナリティー障害ではないか」とコメントされ、会社の相談した弁護士からは、おそらく改善は期待できないので、注意・警告、譴責、減給といった段階を踏んで、最終的に自主退職あるいは解雇という流れに持っていく方がよいとのアドバイスを受けている状況でした。

休業から復帰した後も問題行動は続き、上司Aから勉強会への出席を求められると、「お母さんが小学校の授業に参加するのと同じ」などと愚弄し、その後も繰り返される上司Aに対する暴言等につき他の上司から注意されると、一応謝罪したものの、「なんであんな人のためにこんな思いをしなければならないのか」などと発言したため、更に注意を受けるなどし、その後も、「私が産休前にAさんから受けたことは、インドのレイプ事件の被害者と同じだ」などと異常な発言をしていました。

このように、問題行動を繰り返すなど協調性が欠如し、職場環境を害していたことなどから当該労働者は育休明けであったものの解雇されましたが、これに対して判決は、「労働者に何らかの問題行動があって、職場の上司や同僚に一定の負担が生じ得るとしても、例えば、精神的な変調を生じさせるような場合も含め、上司や同僚の生命・身体を危険にさらし、あるいは、業務上の損害を生じさせるおそれがあることにつき客観的・具体的な裏付けがあればともかく、そうでない限り、事業主はこれを甘受すべきものであって、復職した上で、必要な指導を受け、改善の機会を与えられることは育児休業を取得した労働者の当然の権利といえ、原告との関係でも、こうした権利が奪われてよいはずがない。そして、本件において、上司や同僚、業務に生じる危険・損害について客観的・具体的な裏付けがあるとは認めるに足りない。」(注:下線は筆者)、と判示し、解雇無効と判断しました。さらに、慰謝料および弁護士費用相当額として合計55万円の損害賠償の支払いが認められています。

少子高齢化社会を打開するためのいわば国策として、今後、出産・育児を行う労働者は手厚く保護されることが予想されます。仮に、この事例で解雇が有効となると、最終的には社会保障で当該労働者の生活を支えざるを得なくなることも予想され、国庫にとっては大きな負担となります。それよりも、雇っている個々の企業にある程度の負担をさせるべく、「(生命・身体の危険や業務上の損害について裏付けがない限り)事業主はこれを甘受すべきもの」と、かなりの受忍義務を課しているものと考えられます。

判決の理由付けは極めて疑問であり、生命・身体への危険について客観的な裏付けがなければ解雇できないというのは、明らかにこれまでの解雇法理のハードルを超えています。

マタハラに関する近年の裁判例は、もはや法理論を超えて労働者保護に傾斜しているため、企業としては極めて慎重な対応が求められることに注意する必要があるでしょう。

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