定年後再雇用時の賃金水準~賃金水準の減額が許容されるのか~

定年後再雇用者の賃金水準が定年前と比較して、同一労働同一賃金の観点から不合理と評価されるものであるか否かについては、様々な裁判例で判断が示されていますが、長澤運輸事件の最高裁判決では、定年前後で業務内容がほとんど変わらなかったという事案において、年収が2割程度低下したことについて不合理な格差ではないと判断されました。

通常、同一労働同一賃金の問題では年収ベースで比較するのではなく、支給費目ごとに、各費目の支給の趣旨に照らして、その支給の有無や金額に差を設けることについて合理性の有無が判断されます。

定年後再雇用者についてもこの原則は維持されているものの、定年後再雇用者に特有の事情として、これらの者は定年時まで正社員としての待遇を受けており、老齢厚生年金の支給も受けられることから、年収ベースで全体として賃金水準が合理的に設定されているかどうかという視点も重視される傾向にあるといえます。

この問題について最近新しい裁判例の判断が示されました。
名古屋自動車学校事件(名古屋地裁令2・10・28判決)では、自動車学校の教習指導員が定年後再雇用されたという事案において、定年前後で業務内容に変更がなかったという前提の下、定年前の60%の水準を下回る限りで不合理な格差に該当すると判断されました。

最高裁の判断を待つ必要はありますが、定年前後で働き方がほとんど変わらない事案において、いったい何%まで賃金水準を減額することが許容されるのかということは企業にとっても非常に関心があるところと思われるため、今後の最高裁の動向を注視する必要があるでしょう。

弁護士 石井拓士(いしい たくじ)(太田・石井法律事務所)

2006年早稲田大学法学部卒業、08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了、09年弁護士登録。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。
主な取り扱い分野は、人事労務を中心とした企業法務。
主な著書に『第2版 懲戒処分―適正な対応と実務』(共著、労務行政、2018年)、『労災保険・民事損害賠償判例ハンドブック』(共著、青林書院出版、2017年)、『退職金・退職年金をめぐる紛争事例解説集』(共著、新日本法規出版、2012年)などがある。

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