日本郵便(大阪)事件(同一労働同一賃金)

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以前、このコラムで同一労働同一賃金に関する日本郵便事件・東京地裁判決を紹介しました。その後、さらに大阪地裁でも、日本郵便について同様の判決が出されました。

いずれも有期雇用労働者と無期雇用労働者の労働条件の差異が問題となった事件ですが、東京地裁判決では、年末年始勤務手当、住宅手当、夏季冬季休暇制度、病気休暇制度の有無について差があることが不合理な差であり違法とされました。このうち、年末年始勤務手当については、有期雇用労働者に対しても8割の水準で支給すべきとされ、住宅手当については6割支給すべきと認定されています。

これに対して、大阪地裁判決では、同じ日本郵便の事案ですが、年末年始勤務手当および住宅手当について無期と有期で全く同じ水準で支払うべきとし、さらに、扶養手当の差についても違法としました。

全く同じ水準で支払う場合、日本郵便に有期雇用労働者は19万人以上いるため、住宅手当のみでも50億円以上の追加の人件費が必要となります。

そもそも、住宅手当など各種手当は、基本給を上げると残業代の単価が増加するため、これを避けつつ給与水準を上げるための方策として、労使双方が長年の歴史の中で築き上げてきた制度という側面も有しています。そのような「本音」部分を無視し、「転居を伴う異動がない無期雇用労働者にも住宅手当が支給されているなら、同様の有期にも支給すべきだ」という「手当の趣旨の建前」だけを全面に押し出して、有期雇用労働者にも支給すべきと結論付けることは、実務への影響を十分に考慮した判決であるとは言い難く、杓子定規に過ぎるように思われます。その意味では、6割といった割合的認定をした東京地裁判決の方が、多少のバランス感覚は備えていたものと評価できそうです。

これらの判決を受け、近時の報道でもあったとおり日本郵便は、労使合意に基づいて、転居を伴わない無期雇用労働者に対する住宅手当の制度を廃止しました。つまり、非正規の労働条件を上げるのではなく、無期雇用側の労働条件を下げることで対応したのです。

そもそも、様々な手当は、長年の労使交渉の歴史の中で築き上げられてきた制度です。それを「違法である」と断ぜられると、使側のみならず労側(正社員側)の反発を招くことは当然に予想されます。そのため、労使双方の合意で日本郵便のように対応する例は今後も出てくる可能性があるでしょう。

日本では、労働条件の変更は容易には行えず、解雇の自由も規制されています。そのような不自由な労務管理を強いられている中、ゆっくりと着実に築き上げてきた人事制度について、ある日突然、抽象的な法律ができたからといって、「違法」と断定されたとしても、それでは企業として人事制度全体のバランスに配慮した上でどのように対応すればよいのかという問題は、企業側に丸投げされているのが現状です。

一つの考え方として、仮に労働条件の差が不合理であったとしても、ただちに不法行為に該当するのではなく、合理的な期間を経過しても企業が何も対応を取らない場合に初めて不法行為が成立するものとすることが考えられます。そして、企業側の対応としては、有期雇用労働者の労働条件を引き上げることだけではなく、労使交渉により、正社員側の労働条件を調整することも選択肢に含まれ、仮に交渉の結果、労使双方が合意に至らずに労働条件を調整できなかったとしても、企業としては有期と無期の労働条件の差を埋めるために十分に尽力したものとして、不法行為の成立を否定することが考えられます。そのような柔軟な法解釈が望まれるものと考えます。

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