第184回 連邦法人税の税率引下げが業績に与える影響 ~米国における税率引下げにより、なぜ利益が増加するのか~

今月のキーワード ―2018年4月―
公認会計士 太田達也

■連邦法人税の税率引下げとその影響
昨年12月に、米国における連邦法人税の税率引下げが成立しました。35%から21%に、実に14%の引下げになります。今年に入ってから、日本企業が、連結の業績を上方修正する発表が相次ぎました。ソフトバンクグループ傘下の米携帯子会社スプリントは、米国の税率引下げに係る税効果の影響により約7,700億円の増益の影響が生じたことを公表したと報道されています。
日本の場合、2年ほど前に、法人税率の引下げが行われたことによる税効果の影響が減益要因になった企業が多かったわけですが、米国の場合はなぜ増益の影響が生じるのでしょうか。

■米国における税効果会計導入の経緯
米国では、過去に景気刺激策として加速度償却制度が設けられ、設備を取得した初年度に取得価額の50%を損金算入できるなどの有利な税制が充実しています。会計上の減価償却は定額法で行うため、税引前当期純利益はそれほど減少しませんが、加速度償却を利用することにより「法人税、住民税及び事業税」が大幅に減少する結果、当期純利益が増えることになります。ただし、税務上、初年度に多く償却できるということは、翌期以降の償却額はその分少なくなります。要は、利益を先取りする実態になるわけです。そのような利益の先取りが真の業績を反映しないため、税効果会計が導入され、将来の増税分を繰延税金負債に計上することを義務づけることにより、利益の先取りができないように規制された経緯があります。

■なぜ利益が増えるのか?
米国の場合は、先の償却制度との関係から、将来加算一時差異が重要である企業が多いわけです。将来加算一時差異の方が将来減算一時差異よりも重要である場合は、法定実効税率が下がると、繰延税金負債の減額幅の方が繰延税金資産の減額幅を上回ります。税金費用が減少するため、結果として、当期純利益を増加させることになります。この点、将来の増税分について計上している繰延税金負債について、法定実効税率が下がることにより、将来の増税効果が薄まるため、利益を増やす方向に働くと考えるとわかりやすいと思います。
翌期以降の納税額が減少することにより、将来のキャッシュ・フローに影響しますが、会計上は直ちに利益に影響する点で、影響の時点が異なります。

■日本との違いは
日本の場合は、有税の貸倒損失や減損損失、有税の引当金など、将来減算一時差異が重要である場合が多く、設備投資の初年度に多額の損金算入ができる税制は限定的です。将来減算一時差異の方が将来加算一時差異よりも重要である企業が多く、その場合は、法定実効税率が下がると、繰延税金資産の減額幅の方が繰延税金負債の減額幅を上回ります。税金費用が増加するため、当期純利益が減少する影響に働きます。平成28年度税制改正により実効税率の引下げが行われたときに、当期純利益が減少した企業が多かったことは記憶に新しいところです。

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