第214回 消費税の課税選択の変更に係る特例

(2021.1.27.訂正版掲載)

■特例の創設の趣旨
 「消費税の課税選択の変更に係る特例」が創設されました。この特例が措置された背景には、新型コロナウイルス感染症およびその蔓延防止のための措置の影響(以下、「新型コロナウイルス感染症等の影響」という)により、課税期間の開始前に届出書を提出できない、または課税期間の開始後に適用を変更する必要があるといった不測の事態が生じた事業者が想定されることがあります。このような事業者に係る届出書の適用関係については、納税地の所轄税務署長の承認を前提に、届出書が課税期間の開始前に提出されていない場合においても、その課税期間の開始前に提出した場合と同様の効果が生ずるようにする等の措置を講ずる必要が生じたと考えられたことから、特例措置が創設されました。

■特例の内容
 今般措置された「消費税の課税選択の変更に係る特例」により、新型コロナウイルス感染症等の影響を受けている事業者で一定の条件を満たす者は、所轄税務署長の承認を受けることで、特定課税期間以後の課税期間について、課税期間の開始後であっても、課税事業者を選択する(またはやめる)ことができることとされました(新型コロナ税特法10条1項、3項)。
 「特定課税期間」とは、新型コロナウイルス感染症等の影響により事業としての収入の著しい減少があった期間内の日を含む課税期間をいいます。その要件の具体的な内容については、以下に解説します。

■特例の対象となる事業者
 特例の対象となる事業者は、新型コロナウイルス感染症等の影響により、令和2年2月1日から令和3年1月31日までの間のうちの任意の1ヵ月以上の期間の事業としての収入が、著しく減少(前年同期比概ね50%以上)している事業者です(新型コロナ税特法10条1項、新型コロナ税特令7条、新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律の施行に伴う消費税の取扱いについて(国税庁法令解釈通達(令和2年4月30日課消2-7))1
 具体的には、令和2年2月1日から令和3年1月31日までの間のうち任意の期間(連続した1ヵ月以上のものに限る)の事業としての収入金額につき、その期間の直前1年間におけるその期間に対応する期間(その期間に対応する期間がない場合は、令和2年1月以前でその期間に近接する期間その他その収入金額と比較する期間として適当と認められる期間)の収入金額(その期間に対応する期間の収入金額が不明な場合は、その期間の直前1年間の収入金額を12で除し、これを割り当てる方法その他適当な方法により算定した金額)に対して、概ね50%以上減少していると認められることをいいます。


1 事業としての収入の著しい減少が新型コロナウイルス感染症等の影響に因果関係を有する ことをいい、例えば、事業者またはその親族、従業員等が新型コロナウイルス感染症に感染 したことによる影響のほか、イベント開催または外出等の自粛要請、入国制限、賃料の支払 猶予要請等の各種措置による影響等により、収入の減少があったことをいう。

■2年間の継続適用要件の不適用
 本特例により課税事業者を選択する(またはやめる)場合、2年間継続適用要件および3年間継続適用要件2は適用されません(新型コロナ税特法10条2項)。したがって、本特例により課税事業者を選択した課税期間の翌課税期間において、課税事業者の選択をやめることも可能です。その場合、翌課税期間の開始の日の前日までに「課税事業者選択不適用届出書」を提出することが本来は原則ですが、特定課税期間後の課税期間について、特例により課税事業者の選択をやめる場合の申請期限は、① 特定課税期間の末日が、課税事業者選択届出書の提出により課税事業者となった課税期間の初日以後2年を経過する日(2年経過日)以後に到来する場合は、特定課税期間に係る確定申告書の提出期限、② ①以外の場合は「2年経過日の属する課税期間の末日」と「課税事業者の選択をやめようとする課税期間の末日」とのいずれか早い日とされますので、上記の場合は②が適用され、翌課税期間の末日までに届出書を提出すればよいことになります。
 逆に、本特例により課税事業者をやめた課税期間の翌課税期間において、課税事業者を選択することも可能です。この場合は、本特例に係る「承認申請書」と「消費税課税事業者選択届出書」を特例の適用を受ける課税期間の末日の翌日から2ヵ月を経過する日までに提出しなければなりません。ただし、特例の適用を受ける課税期間の翌課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出する場合には、「承認申請書」は不要です。
 例えば、令和3年3月期が特定課税期間に該当する場合、当該期間中に設備投資を予定していたため、あえて課税事業者を選択して仕入税額控除により消費税の還付を受けることを予定していた事業者が、新型コロナウイルス感染症等の影響により設備投資を翌課税期間に延期したような場合に、令和3年3月期について課税事業者をやめて、特例の適用を受ける課税期間の末日の翌日から2ヵ月を経過する日(令和3年5月31日)までに「承認申請書」と「消費税課税事業者選択届出書」を提出することにより、令和4年3月期について課税事業者を選択することもできることになります。この事例のように、特例により1年間だけ課税事業者の選択をやめる場合、課税事業者の選択をやめる特例承認申請書の提出期限と、再び課税事業者を選択する場合の特例承認申請書の提出期限が同じ日になる点に留意が必要です。
 なお、課税事業者の選択をやめる場合であっても、納税義務が免除される事業者は、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者であることは言うまでもありません。


2 課税事業者選択制度の適用を受けた事業者については、2年間は事業者免税点制度を適用できないこととされています。(消法9条6項)。また、2年間継続適用要件の期間中に調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、その調整対象固定資産の仕入れ等を行った課税期間以後3年間は、事業者免税点制度を適用できないこととされています(消法9条7項)。

■申請の手続と期限
 特例の適用を受けようとする事業者は、特例の適用を受けようとする課税期間等の一定の事項を記載した申請書に新型コロナウイルス感染症等の影響により事業としての収入の著しい減少があったことを確認できる書類を添付して、一定の期限までに所轄税務署長に提出しなければなりません(新型コロナ税特法10条7項、新型コロナ税特規5条)。

申請書の提出期限

免税事業者が課税事業者を選択する特例の場合

特定課税期間の末日から2ヵ月(個人事業者の場合は3ヵ月)を経過する日※1

課税事業者が課税事業者の選択をやめる特例の場合

イ 特定課税期間から課税選択をやめようとする場合および特定課税期間の末日が課税事業者選択届出書の提出により課税事業者となった最初の課税期間の初日以後2年を経過する日(以下、「2年経過日」という)以後に到来し、当該特定課税期間の翌課税期間以後の課税期間から課税選択をやめようとする場合

当該特定課税期間に係る確定申告書の提出期限2

ハ イ以外の場合

2年経過日の属する課税期間の末日と課税選択をやめようとする課税期間の末日とのいずれか早い日

※1 国税通則法第11条の規定の適用により、この承認申請の期限を延長することができます。
※2 国税通則法第11条の規定の適用により当該確定申告書の提出期限の延長を受けている場合には、その延長された期限となります。

編注)2年間の継続適用要件の不適用の段落で、特例により課税事業者の選択をやめる場合の申請期限について、コラムの記述が適切ではありませんでしたので、該当箇所を修正いたしました(2021.1.27)。読者の皆様には、謹んでお詫び申し上げます。

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