親会社の内部通報窓口

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近年、コンプライアンスの観点から、グループ企業では親会社等に従業員からの苦情・相談を受け付ける窓口を設置することが求められるようになりました。

そのような中、子会社の従業員から苦情・相談があった場合に、親会社という立場上、どこまでの調査や事後対応を行うことが求められるのかということについては、明確なルールはなく、裁判でも問題となっていました。

今年の2月15日、この問題につき、最高裁が初めてとなる判断を示しました。イビケン(旧イビデン建装)元従業員ほか事件です。同事件は、子会社の従業員(課長)が、同じくグループ企業である発注先の契約社員に対してセクハラを行ったところ、同契約社員の同僚が親会社の相談窓口に通報したという事案です。この事件でセクハラとして問題になった行為は大きく分けると2つあり、一つ目は、同課長が同契約社員に対して交際を求める発言を繰り返し、自宅まで押し掛けるなどした行為であり、二つ目は、同契約社員が退職した後に、同課長が同契約社員の自宅前に車を停車させるなどした行為です。

このうち、親会社の相談窓口に通報されたのは二つ目の行為のみとなります。通報を受けて親会社は、子会社に対して事実調査を命じたところ、子会社は被害者にヒアリングすることなく、通報に係る事実は確認できなかったと結論し、親会社へ報告しました。

名古屋高裁は、通報のあった二つ目の行為だけではなく、一つ目の行為についても、親会社の対応が不適切であったとして、親会社の法的責任を認めました。これに対して最高裁は、一つ目の行為についてはそもそも親会社に対する通報がなかったため、親会社に法的責任はないとし、二つ目の行為についても、本件事情のもとでは、親会社としての対応に不適切な点はなく、親会社に法的責任が生じるものではないとしました。高裁判決が一つ目の行為について、親会社への通報がなかったにもかかわらず親会社の責任を認めたことは、明らかに理論的根拠が薄弱であるため、最高裁で破棄されたことは当然と考えられます。

一方で、二つ目の行為については、子会社が被害者に対するヒアリングを実施していないという点で、子会社側は明らかに調査不十分であり、その報告をそのまま受け入れた親会社にも何らかの責任があるのではないかということは一つの問題となり、高裁と最高裁ではこの点に関する評価・判断が分かれたものと考えられます。

たしかに、一般論として、被害者に事実確認することなくハラスメントの事実はなかったと結論付けることは、捜査で例えれば、容疑者の言い分のみで事実認定しているようなものであり、事実調査の手法として明らかに問題があるようにも思われます。しかし、本件で問題となった二つ目の行為は、同契約社員が退職した後の出来事であること、事業場外で職務の執行とも関係のない行為として行われたものであること、そして、通報時点ですでに8か月が経過していたことといった事情を踏まえ、最高裁は、親会社が子会社に対してさらなる事実調査を命じたり、あるいは自ら事実調査を行わなかったりしたとしても、法的責任を問われるほどの問題はなかったものと判断しました。

企業側にとっては、いわば救済的な判決とも評価できますが、今後の通報窓口の実務としては、ハラスメント通報に対する調査手法に明らかな不手際があれば、再調査を命じるなどしなければ、本件のような特殊な事情がない限り、法的責任を問われる可能性があるため注意する必要があるでしょう。最高裁判決を踏まえ、あらためて通報窓口の制度設計やマニュアルなどを整備し、担当者各位に対して周知するとともに、担当者を十分に指導・教育することが重要です。

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