降格による減給・裁量労働制の適用除外による不利益

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今回は降格による減給と、裁量労働制の適用除外による不利益という2つの異なるテーマを扱っていますが、これは、日立コンサルティング事件(東京高裁)でそれぞれについてやや真新しい判断が示されたためご紹介するものです。

降格といっても、人事考課に基づくものと、懲戒処分に基づくものがあります。人事考課だから降格に伴う大幅な減給はできない、あるいは、懲戒処分なら降格に伴い大幅な減給ができる、といった基準があるものではありません。結局は、いずれであったとしても、降格の根拠となる事実にどれだけのインパクト(問題性)があるかということに尽きるかと思います。

また、裁量労働制は昨今、様々な議論があり、適用要件を満たしているかということについて労基署の調査が入った事業場も多々あるという話が聞かれるところです。ただし、日立コンサルティング事件で問題となったのは、裁量労働制の適用から外すことで、裁量手当がつかなくなるという不利益を被ったことの適否が争われたものです。したがって、世間で労基署の調査が入っている場合とは逆の話となります。

日立コンサルティング事件では、懲戒処分に基づく降格で年収が20%減少し、さらに、裁量労働制の適用からも外されたことで裁量手当が支給されなくなり、さらに20%ほど減給したという事案です。

降格に伴う減額幅から考えれば、これまでの裁判例では10%に止めている会社の例が多く、かなりの不利益措置と考えられます。そこで、20%もの減額に相応しいほどの問題行動があったのかということが問題になります。


判決で認定された問題行動は次のとおりです。
「〈1〉原告は、平成24年10月ころからコンサルタントの意識及び基礎的技術の不足、協調性及び自己改善意欲の乏しさが目立ち始め、自己が任せられる業務内容にも不満を持って(原告は単純作業ばかり割り当てられたように主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。)、上司の指導にも独自の見解を述べて従わない反抗的な態度を取り、上司から原告に任せる仕事の提案を受けても「今回のポジションに自分は合わないとは思います。」と消極的で、独善的な傾向が見られたこと、...〈4〉原告は、...上司の指示に反して日立製作所と直接連絡を取る、上司からの電話をいきなり切る、懇切丁寧に面談を求められても「圧力があります」「強要には身の危険を感じますので、こちらも弁護士を同席させてよろしいでしょうか」「スタッフの給料は顧客が支払っているのですから、非収益部門の人の一存で顧客の都合を変えるのはよくない」などと称して上司との面談やミーティングに応じない、上司を厳しく非難するメールを関係者、社外(Cシニアマネージャーの転職先)に送信するといった行動が見られたこと、...〈6〉被告は、原告の上記〈4〉の言動にかんがみ原告を本件銀行支援プロジェクトから直ちに離任させることを決定して、平成25年3月28日、原告にこれを指示したが、原告はこれに反発して、3月28日夜の騒ぎにおいて、上司からの明確な指示に従わないばかりか、強引に本件銀行本社に立ち入った上、警察官を出動させる騒ぎを起こし、被告及び日立製作所の顧客である本件銀行に対する体面が著しく損なわれたこと、〈7〉被告は、3月28日夜の騒ぎを問題視し、懲罰委員会規則に基づいて、原告から弁明を詳しく聴取し、懲罰委員会の審議を経た上で、上記〈4〉の行動及び3月28日夜の騒ぎに関して、本件懲罰委員会答申を得た上で、本件降格を決定したこと、〈8〉原告は、上記〈7〉の弁明でも上司を非難し、反省の態度はみられなかったことが認められる。」

このように、上司の指示に従わない、注意に対して反抗的態度を取る、上司を厳しく非難するメールを関係者や社外に送信する、顧客に対する体面を損なうような問題行動を強行する(警察官を出動させるほどの事態となる)といった問題行動があり、判決は、20%の減給となる降格処分は適法であると判断しています。

一方で、裁量労働制の適用から外したことについては、裁量労働制の適用を外すことがある旨の規定はあったものの、これは、採用当初から裁量労働制で雇われたものには適用されないとし、裁量労働制の適用を外したことは違法・無効とされました。また、同事件では最終的に解雇もされており、解雇についしては有効と判断されています。

20%の降格が適法とされるほどの問題があり、裁量に任せて働かせることができないような問題社員でありながら、裁量労働制の適用から外すことができないとした判断は疑問です。

本判決を踏まえ、企業としては、当初から裁量労働制の適用対象者として採用する社員であっても、裁量に任せて働かせることが不適当と認められるような事情がある場合には適用を除外することができる、ということを契約書および就業規則の両方において明記しておく必要があるでしょう。

また、降格に伴う減額幅に関してですが、従来は、労働者に対する著しい不利益を避けるためにも10%程度に止めるべきという議論がありましたが、結局は、どれだけの問題行動があるのかということが重要ですので、重大な問題行動があれば、10%を超える減給も当然認められるべきですし、そのことを是認した本判決は、今後の人事労務管理にとって後押しとなるものといえるでしょう。

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