高額所得者と割増賃金2

本年4月に本ホームページの拙稿で、高額所得者に対する割増賃金の問題につき、医療法人社団Y事件(東京高判平27・10・7)を紹介しました。

img_jitsumu_0067.jpg同高裁判決は、年俸1,700万円(月額120万円)の給与を得ていた勤務医につき、通常の労働時間の賃金と割増賃金を明確に区別することはできなかったものの、「通常業務の延長としての時間外労働に係る賃金分が含められていると解しても何ら不合理ではない」として、時間外割増賃金請求を否定しました。

これまでの最高裁判決では、割増賃金分につき、あらかじめ基本給の中に含める、あるいは手当として定額を支払うという方法も、通常の労働時間の賃金と割増賃金を明確に区別することができ、かつ、労基法の定めに従って計算した割増賃金以上の額が支払われる、あるいは不足分を別途支給していれば適法であるとされていました。
上記高裁判決は、医師の職務の特殊性や高い給与水準を踏まえて、このような最高裁判決の例外的判断を行ったものです。

しかし、その上告審判決である最高裁第二小法廷平29年7月7日判決において、上記高裁判決は破棄され、これまでの最高裁判決の原則に従った判断が下されました。
したがって、いかに高額の給与を得ていたり、医師としての職務の特殊性からして一定の残業時間が当初から想定されていたりなどしても、通常の労働時間の賃金と割増賃金を明確に区別することができなければ、原則どおり、基本給の中に割増賃金が含まれていたと解釈することはできないことが、裁判所の判断として明確に示されたことになります。

現在、国会では脱時間給の制度の法制化が議論されています。労働時間に応じて機械的に割増賃金を支払うことが相応しくない職種も多数存在することは事実であり、割増賃金の支払いがなかったとしても相当の賃金待遇を受けていれば労働者を害するおそれもないといえます。上記高裁判決は、立法に先駆けて実態に則した解決を図りましたが、最高裁は現在の法制度を前提とした原則的判断を貫いたため、この問題については、やはり立法によって解決するほかないことになります。実態に則した妥当かつ合理的な処遇を実現できるようにするためにも、脱時間給制度の迅速な審議・法制化が望まれます。

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