LGBTとハラスメント

昨今、LGBTに関する一般的な認識も広まり、職場においても、従来の男女二分論では語れない様々な問題が発生しています。

従来より、厚生労働省(以下厚労省)の通達では、同性同士であってもセクシュアル・ハラスメントが成立するとされていますが、今年の8月2日に、厚労省は、これまでのセクハラ指針の解釈について、さらに踏み込み、「職場におけるセクシャルハラスメントには、同性に対するものも含まれるものである。また、被害を受けた者(以下「被害者」という。)の性的指向または性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシャルハラスメントも、本指針の対象となるものである。」という見解を示し、いわゆるLGBTへの差別的な言動もセクハラに該当することが明確化されました。

img_jitsumu_0059.jpgこれまでの、いわば古典的なセクハラ被害では被害者が誰であるか明らかでしたが、LGBTの人が周囲に対して自身の傾向を秘匿していた場合などには、周囲の無配慮な言動により、人知れず被害が発生するという状況が生じるおそれも考えられます。


一方で、トイレの使用方法など、LGBT以外の人々にとっての就業環境にも一定の配慮が必要になることがあり、LGBTの人々に対してどこまでの配慮が必要になるのかということは、まだ議論の途中にあるものと考えられます。

まだ裁判例は少ない状況ですが、たとえば、S社性同一性障害者解雇事件(東京地決平14.6.20)では、性同一性障害の労働者が、女性の容姿のまま就労することを求めたにもかかわらず、会社がこれを認めず、懲戒解雇したという事案につき、性同一性障害者が容姿について配慮を求めることには相応の理由があること、会社としても、そのような労働者が女性の容姿で就労することを認めることに関して、業務上の著しい支障を来すおそれがあるとは認め難いこと等から、解雇無効と判断されています。

これまでは、LGBTに関する周囲の一般的な理解も進んでいなかったこともあり、問題が表面化しづらかった面もありましたが、今後は同種の紛争が顕在化していくことも予想され、現に、2015年11月2日朝日新聞デジタルの記事によれば、経済産業省が、戸籍上の性別は男性であるが性同一性障害の職員に対し、女性の服装や休憩室の利用は認めたものの、女性トイレの使用を認めず、さらに、女性トイレの使用を希望する場合には、戸籍上の性別を女性に変えること、または異動ごとに同障害を公表して同僚の理解を求めることを要求し、加えて上司が、「手術を受けないのであれば男に戻ってはどうか」と発言したというケースにつき、同職員がうつ病を発症し、国に対し、処遇改善と慰謝料の支払いを求めて提訴したとされています。

また、2016年6月28日産経ウエストの記事によれば、戸籍上の性別は男性であるが性同一性障害である社員が、家裁により女性名への変更が認められたことから、会社に対して健康保険証の名義変更を依頼し、更衣室については男性用を使用しなくていいよう配慮を求めるとともに、社内で障害を知られたくないとして、他人の目に触れる名簿などの記載は従来の男性名を要望したところ、これに対して会社が、一方的に掲示物や名札を女性名に変えた上で、役員用更衣室などの使用を認める代わりに、同じ課の社員の前で障害をカミングアウトするよう強制し、その結果、同社員はうつ病を発症し、会社に対して慰謝料の支払いを求めて提訴したとされています。

いずれの事件も現在係争中と考えられますが、少なくとも他の従業員の職場環境を害さない範囲においては、LGBTの人に対して相応の配慮を尽くすべきであり、まして、カミングアウトの強制や、アウティング(勝手に周囲に言い触らす)、あるいはLGBTに対する無配慮な発言等は慎むべきことは当然といえるでしょう。

もっとも、これらは記事の内容によるものであり、原告の主張に依拠している部分も多数存在する可能性があることから、上記記事内容が全て事実として正しいとは限りませんが、このような紛争リスクがあることを理解し、企業としては、男女二分論を超えて、性的マイノリティーに対する配慮も怠ることのないよう注意する必要があるでしょう。

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