老人ホームを退去して入院先で死亡した場合の特定居住用宅地等の適用

2023年5月11日

 

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老人ホームを退去して入院先で死亡した場合の特定居住用宅地等の適用


[質問]

(前提)

被相続人 父

相続人 長女 長男

① 被相続人は自宅兼賃貸物件を所有しており、亡くなる数年前から老人ホームに入居していた。入居前は一人暮らしであった。

② 老人ホーム入居後に長女が自宅建て替えの為、被相続人自宅に入居。その後、建て替えに関してトラブルが発生し継続して居住している。

③ 老人ホームを退去し、長男勤務の病院に入院した。この際に老人ホームは完全に退去しており清算済みである。

④ その後、病院で亡くなった。

 

(照会事項)

自宅に関して、特定居住用の適用を受ける事が可能かどうかについて照会します。

①→②の時点では完全に特例の対象外と認識しています。その後、老人ホームを完全に退去したことにより生活の拠点は自宅に移っていると考えられます。

実際は体調が芳しくない為、長男に診てもらう事が目的で、自宅に帰宅してはいません。

状況的には同居要件を満たしているとは言い難い面がございますが、亡くなる数か月前にはホームを退去している=生活の拠点は自宅であるが病院に入院している状況ともいえます。

このような場合に、小規模宅地の特例の適用を検討できるでしょうか。

 

 

[回答]

ご質問の事例では、被相続人が老人ホームに入居する直前において同居している親族がいないことから、長女が被相続人と生計を一にしていた親族に該当する場合には、自宅部分の敷地は特定居住用宅地等に該当するものと考えます。

 

1 小規模宅地等の特例の被相続人要件等

租税特別措置法第69条の4の小規模宅地等の特例の対象となる宅地等は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうち、被相続人が所有していた宅地等で、相続開始の直前において被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の事業又は居住の用に供されていたものになります(措置法第69条の4第1項本文)。

加えて、相続開始の直前において被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていなかった宅地等であっても、次の要件を満たす場合には、被相続人の居住の用に含まれるとされています(措置法第69条の4第1項括弧書き)。

(1) 被相続人が相続開始の直前において要介護認定、要支援認定又は障害者支援認定を受けていたこと及び被相続人が老人福祉法等に規定する養護老人ホーム等に入居又は入所していたこと(措置法施行令第40条の2第2項)。

(2) その建物が事業(貸付けを含みます。)の用に供されていないこと、又は被相続人等(被相続人と老人ホームに入居する直前において生計を一にし、かつ、その建物に引き続き居住している被相続人の親族を含みます。)以外の者の居住の用に供されていないこと(措置法施行令第40条の2第3項)。

 

2 特定居住用宅地等の取得者要件等

被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等をその親族が取得した場合には、相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有しているという要件を満たせばよいのですが、被相続人の居住の用に供されていた宅地等を配偶者以外の親族が取得した場合には、次の要件を満たす必要があります(措置法第69条の4条第3項第2号イロハ)。

(1) 被相続人の居住の用に供されていた1棟の建物に居住していた親族の場合には、相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。

(2) 上記以外の親族の場合には、①居住制限納税義務者等のうち日本国籍を有しない者ではないこと、②被相続人に配偶者がいないこと、③相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた相続人がいないこと、④相続開始3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族などが所有する家屋に居住したことがないこと、⑤相続開始時に取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと、⑥その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること。

 

3 事例への当てはめ

ご質問の事例において、長女が被相続人と生計を一にしていた親族に該当する場合には、被相続人が老人ホームに入居した後に被相続人が居住していた自宅に長女が入居したとしても、相続開始の直前において「被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等」になります(措置法第69条の4第1項本文)。また、老人ホーム等に入居等していた場合の要件も満たしますので、「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」にもなります。そして、特定居住用宅地等の取得者要件等を満たせば、特定居住用宅地等に該当します。

なお、生計を一にしていた親族の定義は租税特別措置法にありませんが、小規模宅地等の特例における「生計を一にする」ことの意義に関しては、実務上所得税基本通達2-47に準じて取り扱われています。同通達では、親族が同一の家屋に起居している場合は、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとして取り扱っています。また、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族間において、常に生活費、療養費等の送金が行われている場合は、生計を一にするものとして取り扱われています。

 

4 被相続人の生活の拠点

ご質問の趣旨としては、長女が同居要件を満たしていない場合に、被相続人は老人ホーム退去後そのまま入院して亡くなられたことから、老人ホームからの退去により被相続人の生活の拠点が自宅に移ったと考えることができないかと思われます。

確かに、国税庁の質疑応答事例には、「病院の機能等を踏まえれば、被相続人がそれまで居住していた建物に起居しないのは、一時的なものと認められますから、その建物が入院後他の用途に供されたような特段の事情がない限り、被相続人の生活の拠点はなおその建物に置かれていると解するのが実情に合致するものと考えられます。したがって、その建物の敷地は、空家になっていた期間の長短を問わず、相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当します」とする回答要旨があります(国税庁ホームページ/質疑応答事例「入院により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例」参照)。

しかし、ご質問の事例の被相続人の自宅には、①相続開始直前において被相続人は居住していないこと、②被相続人は老人ホームに入居して一旦は生活の拠点を移していること、③その後老人ホームから退去してそのまま入院していること、④老人ホーム入居後及び入院中のその建物には長女が居住していることから、被相続人が老人ホームに入居する前まで居住していた建物に起居しないのは、一時的なものと認められず、その建物は入院後も他の用途に供されていますので、被相続人の生活の拠点は既にその建物に置かれていないと解することが相当と考えます。

 

 

(税理士懇話会・資産税研究会事例より)

 

 

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