マンションの評価
2023年11月28日
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マンションの評価
[質問]
1. 令和4年12月に相続開始しました。
2. 被相続人は、平成20年に配偶者から相続した10階建てマンション1棟(1~8階が貸付用、9、10階が自宅用)と平成27年1月に6,800万円で購入した高層マンション1部屋(購入後から貸付用)です。
3. 高層マンションの購入資金は、自己資金800万円と都市銀行からの借入金6,000万円です。
4. ネットで相場を検索すると大体1億円です。
5. 相続日現在の借入金残高は5,000万円くらいです。
マンションの評価については、財産評価基本通達6項の適用事案が増えてきていますが、判決等を読んでも必ずしも適用要件が明確にされていないと思われます。
上記案件の高層マンションは、相続税節税対策と相続の分割対策で購入したものですが、今までどおりの相続税評価額(土地:路線価評価+家屋:固定資産税評価額)で評価申告した場合に、財産評価基本通達6項の適用事案であるとして更正される可能性はあるのでしょうか。
[回答]
1 財産評価基本通達6項(以下「総則6項」という。)の適用基準は、令和4年4月19日判決(以下「本判決」という。)が判示するように評価通達に定める評価方法によって課税対象不動産を評価するという形式的平等を貫くことが、かえって実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合、具体的には、不動産の価額の評価に関して次に掲げる基準を全て満たす場合であると考えます。
イ 課税対象不動産の課税時期における客観的な交換価値を示すものとして、その不動産の鑑定評価額又は市場価格(以下「不動産鑑定評価額等」という。)があること。
ロ 課税対象不動産に係る通達評価額と鑑定評価額等との間にかい離が存在すること。
ハ 相続税負担の軽減等を意図した被相続人等の行為(被相続人が不動産を購入し、その購入資金を借入金で賄っていたことなど)によって相続税の負担が著しく軽減されていること。
2 上記1の各要件については、次の点に留意してください。
⑴ 相続税負担の軽減等を意図した被相続人等の行為の有無
上記1のハの相続税負担の軽減等を意図した被相続人等の行為の有無について本判決では、「被相続人等は、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において相続人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行した」ことを挙げていますが、その意図の立証について明確なスキームが必要か否かは示されていません。
この点に関し本判決に係る最高裁判所調査官(山本拓)は、「明確なスキームの企画・実行といったことまで必要とするものではなく、かつ、他の意図・目的とも併存し得ることを前提としていると考えられる。上記の意図の存在が事実審で争われた場合、裁判所は、不動産の購入時期、購入原資、利用状況等の事情を総合的に考慮してその存否を認定することになろう」と述べています(山本拓「ジュリスト1581号」96頁・㈱有斐閣)。
⑵ 相続税負担の軽減の程度
上記1のハの相続税の負担が著しく軽減されているか否かについて本判決では、平等原則(課税対象不動産の価額について通達評価額)が適用されない合理的理由として、相続税負担の軽減等を意図した被相続人等の行為によって相続人らの相続税の負担が著しく軽減されていることを挙げているが、どの程度の租税負担の軽減が「著しく軽減」されたことに当たるのか、その軽減の程度について金額基準は示されていません。
この点に関して本判決に係る最高裁判所調査官は、「本判決は、この租税負担の軽減の程度につき形式的な基準を示していないが(このような基準をあらかじめ設定することは理論的に困難である。)、軽減される相続税の額やその割合を総合的に考慮して、正に『著しい』といえる場合に限る趣旨と解される」旨述べています(山本拓・前掲書95頁)。
⑶ 経済合理性の有無
いわゆるバブル期に総則6項の適用が争われた訴訟における裁判例(東京地裁平成4年3月11日判決、東京地裁平成4年7月29日判決、東京地裁平成5年2月16日判決)では、上記1のイ~ハに加え、不動産の購入行為は、相続開始直前の借入金によって賄われたもので、また、同借入金の金利負担額は、同不動産の賃料や被相続人の経常所得を超えるものであり、その行為自体に経済的合理性がなかったことを挙げています。
しかしながら、この点に関して本判決に係る最高裁判所調査官は、「ここで問題となっているのは、時価に係る事実の(平等な)認定であり、いわゆる租税回避行為の否認ではない。本判決が『租税負担の軽減をも意図』した点についての判断に当たり、否認の根拠規定の有無や本件購入・借入れの経済的合理性等を全く問題としていないのはそのためである」旨述べています(山本拓・前掲書96頁)。
3 ご照会の内容からすると、上記1のハの要件である「相続税の負担が著しく軽減されていること」以外の各要件は満たしているのではないでしょうか。
しかしながら、上記1のハの要件に関し、本判決では、どの程度の租税負担の軽減が「著しく軽減」されたことに当たるのか、その軽減の程度について金額基準は示していません。そして、最高裁判所調査官も「軽減される相続税の額やその割合を総合的に考慮する」旨述べるにとどまっています。
また、課税庁が総則6項の適用をする場合には、課税時期現在の課税対象不動産の時価を算定するために鑑定評価等をしており、それなりの時間と費用をかけています。
ご照会のケースについては、平成27年1月にマンション(本件マンション)を主に借入金を原資として購入したことによって、租税負担がどの程度軽減されているか明らかではありませんが、仮に本件マンションの相続税評価額が2,000万円だとして、課税時期現在の借入金残高は5,000万円ですから、余剰債務の額は3,000万円(本件余剰債務)となります。
そうすると、具体的な租税負担の軽減額の多寡を示すのは難しいですか、あえて申し上げれば、本件余剰債務を生じさせたことによって軽減される相続税額が数百万円程度であれば、総則6項の適用リスクは低いのではないかと考えます。
(税理士懇話会・資産税研究会事例より)
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