【健康保険 傷病手当金】
~社会保険加入者は休んでも安心?~
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第5回

2023年5月30日

 

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

連載5回目は【健康保険 傷病手当金】~社会保険加入者は休んでも安心?~というテーマでお届けします。

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【健康保険 傷病手当金】
~社会保険加入者は休んでも安心?~

ノーワーク・ノーペイの原則

みなさんは「ノーワーク・ノーペイ」という言葉をご存知でしょうか?これは、一言でいえば働いていない時間についてお給料はありませんよ」という意味です。労働契約は労働者が自分の時間を会社に労働力として提供し、使用者である会社はその提供された労働力で仕事をしてもらう、という契約です。したがって、労働者が働く時間を提供しない場合、原則として使用者は給料を支払う義務はありません。

 

働きたくても働けない

労働者が自分の勝手な理由で会社に来ないのであれば、給料が出ないのは当り前。自業自得というものです。しかし、時には体調不良で高熱を出したり、ケガをして動けなかったりと「働きたくても働けない事態」になることもあります。自分の意思に反して働けなくても、休んでいる間のお給料は原則として支払われません。これが1日2日程度であれば、自分の年次有給休暇を充当するという解決方法もありますが、手術を要するような病気や足の骨折等で長期になるとお手上げになってしまいます。

 

社会保険加入者には傷病手当金

そんなときに頼りになるのが、健康保険法による「傷病手当金」という制度です。傷病手当金は業務外の事由(仕事や通勤以外)で病気や怪我のために働けない状態(労務不能)となり、お休みが連続した4日目以降、休んだ日の生活保障として支給されるものです。

注意点は、下記のように連続して3日間休まないと「待期期間」が完成しないことです。待期期間が完成しないと傷病手当金の対象となる支給が開始されません。また労災保険(労働者災害補償保険)と異なり、この待期期間の3日分について会社は賃金の補償をする義務はありません。

*1 上記のように連続して3日以上休業した時に待期期間が完成。4日目から傷病手当金の対象となります。

*2 上記待期期間には土日等の会社の休日も含まれます。

 

支給金額

支給対象となった日(休業開始から4日目以降)から1日ごとに、計算式【(支給開始日の以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額)÷30×(2/3)】で計算された金額が支給されます(つまり、過去1年間の1日あたり平均額の3分の2(66.6%)の額が、傷病手当金の1日の額になります)。

なお、支給の意味合いは生活保障ですので、休んだ日に給与が支給または年次有給休暇を取得した場合、その日についての傷病手当金は全額不支給又は一部減額となります。

 

支給期間

令和4年1月1日より、支給を開始した日から通算して1年6か月に変更になりました。ただし、支給開始日が令和2年7月1日以前の場合、支給を開始した日から1年6か月の期間が適用となります。

 

手続きと注意点

この傷病手当金は申請に基づく審査を経て支給となるものです。申請する権利は労働者本人にありますが、一般的には会社担当者が本人とやり取りをして書類を作成、医師による労務不能の証明(申請書の医師の欄に記入)を受けた上で、協会けんぽまたは組合健保に書類を提出します。

なお、この制度の対象になるのは社会保険(健康保険)に加入している被保険者のみですので、パート等短時間勤務で社会保険に未加入の方は対象になりません。また、お休みしていて給与が支払われていなくても社会保険料はかかりますので、この間の本人分の社会保険料は復帰後にまとめて支払っていただくか、各月毎に会社指定口座に振り込んでいただくようお伝えしておく必要があります。

 

新型コロナと傷病手当金

このコラムの第1回【健康保険 傷病手当金、労災保険 休業補償給付】~新型コロナで会社を休んだ時の給付~で取り上げたように、新型コロナによって4日以上連続で欠勤し、労務不能であることの医師の証明があれば傷病手当金の対象となります。ただし、この間に会社から給与や休業手当の支給があれば全部または一部が支給対象になります。
なお、1月25日の時点(第1回掲載時)では自己申告も可能でしたが、現在は医師の証明が必要となり取扱いが変更されていますのでご注意ください。

 

退職後と支給終了

欠勤が長期に及び復帰できない場合、多くの会社では就業規則における休職期間満了時に自然退職という扱いで退職になります。この退職時に傷病手当金を受給しており、かつ、健康保険の被保険者期間が継続して1年以上ある場合、退職後も引き続き本人が申請することで傷病手当金を受け取ることができます(退職日に引継ぎや挨拶等で出勤するとその後は支給対象とならない点に注意)。

 

まとめ

傷病手当金はケガや病気で働くことができず、給与がもらえないときに生活保障として支給されるありがたい制度です。ただし、支給には申請書の提出が必要ですので、傷病手当金の対象と思われる時には、会社担当者から本制度のご案内をしておくべきでしょう。

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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