【130万円の壁対策用“事業主の証明書”について】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第12回

2023年12月22日

 

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

さて、第10回で「106万円の壁対策!」についてご紹介しましたが、その際にも解説した通り、これと似ているものとして「130万円の壁」があります。この130万円の壁対策について会社担当者から「うちのパート従業員から“会社の証明書を出してください”と言われたのですが何のことかわかりません!」という質問が寄せられるようになりました。そこで今回は「130万円の壁対策用“事業主の証明書”」について取り上げたいと思います。

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【130万円の壁対策用“事業主の証明書”について】

130万円の壁についての復習

証明書の前に、まず「130万円の壁」とは何かについて軽く復習しておきましょう。「130万円の壁」とは社会保険の扶養の範囲内の壁という意味です。この金額内の収入であればパート従業員等の方は原則として配偶者等の扶養家族となることができますが、この130万円の壁(注)を超えれば自分自身で社会保険に加入しなければなりません。自分自身で社会保険に加入するということは、健康保険料と年金保険料を自分で負担するということです。

注…2022年10月からは適用拡大により、常時101人以上の特定適用事業所(または任意特定適用事業所)に勤務して要件に該当する方は130万円ではなく106万円を超えれば社会保険の対象。2024年10月からは常時51人以上に拡大。

 

事業主の証明とは

主婦の方などで、繁忙期に残業等で一時的に収入増となり130万の壁を超えてしまった際、会社が証明書を提出することで社会保険の「被扶養者のまま」として扱われる制度のことです。具体的には、被扶養者の認定をする際は、認定対象者(パート従業員)の年間収入が130万円未満であること等が要件とされていますが、直近の収入に基づく年収見込みが130万円以上となる場合でも、その増加が人手不足などによる残業が原因であったような場合、その内容を事業主が証明書を添付することで、被扶養者の認定を可能とするような制度(暫定的)が導入されました。

 

<イメージ図>

(例)被扶養者の範囲内(給与月10万)の予定であったが、残業等で130万を超過した場合

 

事業主の証明書の使用方法

事業主の証明書を提出する例としては、新たに被扶養者としての認定を受ける際や、協会けんぽや健康保険組合等の保険者が被扶養者の資格確認を行う際、被保険者が勤務している会社を通じて各保険者に対して、提出が求められる書類(被扶養者状況リスト等)と併せて、この「事業主の証明書」(下記は抜粋)を提出するとされています。

出典:厚生労働省ホームページ 「年収の壁・支援強化パッケージ」(「130万円の壁」への対応・事業主証明様式 より抜粋)

 

証明書における注意点

今回の証明書についてはいくつかの重要と思われるポイントがあります。厚生労働省からQ&Aが出されていますので、そこから読み取れる重要と思われる点を以下に抜粋します。

□一時的な収入変動の期間は?

今回は事業主が「一時的な収入増」を証明した場合には「被扶養者のままとして扱う」とありますが、この一時的とはいつからいつまでを指すのでしょうか?答えとしては求められるケースが複数考えられるため、求める保険者の判断によるとされています。例えば11月に被扶養者確認を行っている保険者が「直近3か月」を求めた場合、8~10月の間が対象月になると考えられます(Q3-4)。

□何回でも証明書は発行できるの?

今回の制度は当面の措置とされ、恒久的なものではありません。そして証明書の発行は、同一の者について原則として連続2回までを上限とされています。この2回についてですが、上記の「被扶養者状況リスト」が原則として毎年1回は発行されることを考えれば、このリストに2回添付すれば2回というカウントになります(Q1-6)。

□証明書の効力は絶対ではない?

今回の事業主の証明を提出すれば必ず被扶養者のままでいられるということではありません。それは収入要件が給与だけではないため、何か副収入があった場合などは外れる場合も考えられるからです。また、政府が決めた制度であっても実際に被扶養者の認定を決定するのは各保険者であるため、認められないケースもありうるとされています(Q3-8)。

 

まとめ

自社の従業員だけではなく、自社の従業員の家族からも事業主の証明が求められるケースがあります。担当者の方は厚生労働省ホームページ「年収の壁・支援強化パッケージ」も参考にして必要な対応を行ってください。

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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