【雇用調整助成金の“不正受給”問題について】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第13回

2024年1月29日

 

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

さて、今回は最近多く目にするようになった「雇用調整助成金の“不正受給”」問題について取り上げたいと思います。

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【雇用調整助成金の“不正受給”問題について】

雇用調整助成金とは

不正受給問題の前に、まず「雇用調整助成金制度」について軽く復習しておきましょう。雇用調整助成金とは、本来であれば経営悪化によって労働力が不要になり、従業員を解雇しなければならないようなときに、会社が自宅待機させるなどの形で休業手当(平均賃金の60%以上の額)を支給することで雇用をつなぎとめた際、そこで会社が支給した休業手当を充当するような形で支給される制度です(計算式上の問題でイコールの金額ではない)。

ここで重要なのは、本来この助成金の対象になるためには、会社が事前に労働局(ハローワーク等)に「計画届」を提出しなければならず、その計画に則って休業させた場合にのみ支給されるということです。

 

<雇用調整助成金制度のイメージ図>

売上・生産量が減少(労働力余剰)
計画届提出
(審査通過後)計画に従って休業実施(休業手当支給)
支給申請(証明書類添付)
審査通過後、助成金支給

 

 

本来難しいはずが…

上記のように本来は計画届を事前に提出してからでなければ支給対象になりませんでした。そして計画届の「提出」とありますが、実際は「審査を通過した許可」のようなものですので、「仕事が少なくなったから、来週からちょっと休業させて後から助成金もらうか」のようなお手軽なものではありません。この審査については「売上高又は生産量などについて、最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて○○%以上減少していること」等を証明する資料が必要であり、通過しても「実施する雇用調整(休業)が一定の基準を満たすもの」でなければ対象にならないなど、なかなか難しい内容でした。

 

まさかの新型コロナ

そんな折、新型コロナが発生しました。感染が拡大し、「緊急事態宣言」が発令され国民には“不要不急な外出は控える”だけではなく“仕事もできるだけ会社には通わずに在宅でするように”という事態になりました。

しかし、すべての労働者が在宅で仕事ができるわけではありませんし、そもそも経済活動自体が著しく低下してしまい、飲食業やサービス業をはじめとして多くの業種業態で営業が成り立たない事態となってしまいました。

 

脚光を浴びた助成金

ここで脚光を浴びたのが「雇用調整助成金」です。会社側には家賃補助や事業資金の貸付などの策がありましたが、仕事がなくなる多くの労働者への救済策はなかなか困難です。そこで既存の雇用調整助成金が形を変えて流用され、「(コロナ禍で状況が厳しい間)解雇せずに休業させて休業手当を支給すれば(一定の条件はあるが)助成金で補填するよ」という方向性が打ち出されました。

しかも、救済を優先させるため、「事前審査はなし」「申請書も極力簡略化」「本来対象外の雇用保険未加入者も助成金の名称を変えて対応」など特例措置が設けられ、緊急事態に対応したわけです(この点に関しては本コラムの第2回でも取り上げています)。

 

不正が発生しやすい背景と代償

上記の特例措置等によって多くの会社や休業した労働者が救われたのは事実ですが、一方で問題も浮かび上がってきました。例えば、特徴的なのは「実際には休業していないのに休業したこと」にすれば簡単に給付されてしまう点などです。行政での休業したことのチェックは「出勤簿」や「タイムカード」のコピー添付で行われましたが、これらの改ざんは悪意を持ってすれば容易にできてしまいます。中には、朝出勤したらタイムカードの前に「今日はタイムカードは押さない日です」と書かれた札が置かれていたというケースもありました。

しかし、新型コロナの感染状況も落ち着いてきたため、雇用調整助成金について今頃になって調査が本格化してきています。助成金の不正受給は行政を欺く悪質な行為ですので、発覚した場合、支給された金額を返還するだけには止まらず、企業名の公表、違約金・延滞金の支払い、果ては刑法246条の詐欺罪で告発される恐れもあります。

なお、コンサルと称して企業に不正受給を勧める者もいたようですが、不正受給が発覚した場合、事業者だけでなく指南等した者もペナルティを免れることはできません。有資格者の場合は併せて名称の公表、資格停止等の処分をされています。ただし、唆されたからといって企業のペナルティが取り消されるわけではありません。

 

ではどうすれば?

もちろん、不正受給には加担しないことが肝要ですが、もし、不正または不適正と思われる事象が思い当たる場合は、迷わず「自己申告」すべきです。労働局の調査が入った後では手遅れです。ちなみに労働局のリーフレットによれば、「仮に不正受給に該当した場合であっても受給金額+違約金+延滞金を迅速に返還すれば原則として事業主名は原則として公表しない」とされています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/kochokin_husei.html

不正受給に関する調査は、従業員からの内部告発や同業他社等の通報がきっかけとなることも少なくないようです。繰り返しになりますが、万が一、甘言にのってしまったなど心当たりがある場合は、勇気をもって自己申告されることをお勧めいたします。

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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