【年金制度改正法成立~個人にも会社にも影響大!】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第30回
2025年6月23日
ZEIKEN PRESSコラムの更新情報を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー
○●——————————
このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
令和7年5月16日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」(年金制度改正法案)が第217回通常国会に提出されましたが、衆議院で修正のうえ、6月13日に成立しました。個人はもちろんのこと、会社にも大きな影響を与える内容ですので、今回の改正法のポイントをいち早くお伝えいたします。
——————————●○
年金制度改正法成立~個人にも会社にも影響大!
改正法の概要
今回の改正は下記のように多岐にわたっています。
(1) 社会保険の適用拡大…対象企業の規模要件の拡大と段階的な撤廃、5人以上の個人事業主の非適用業種の撤廃、保険料を事業主が追加負担した場合の支援等
(2) 在職老齢年金の見直し…支給停止基準の要件緩和
(3) 遺族年金の見直し…18歳未満の子のない20~50代の女性配偶者への支給を原則5年間に変更等
(4) 厚生年金の標準報酬等級の引上げ…現状の上限65万円から75万へ段階的引き上げ
(5) 基礎年金の給付水準の引上げ…次期財政検証(4年後)の結果を踏まえて措置を講ずる
(6) 個人型確定拠出年金の見直し…加入可能年齢を70歳未満まで引き上げ
上記の他にも、中高齢寡婦加算、脱退一時金、の見直し等も含まれています
以下、項目ごとに詳しくみていきます。
(1)社会保険の適用拡大
A 適用事業所の拡大
2016年10月からパート等従業員の社会保険加入対象者の拡大が進められてきましたが、今回の改正ではこれが段階的に拡大され、将来的には人数に関係なく加入対象者となることが決定しました。
上記のようにこれから10年間かけてパート等従業員に社会保険加入の網がかかることになります。
B 個人事業所の適用業種拡大
これまで個人事業所では5人以上の従業員を使用していても社会保険の適用対象にはならない「非適用事業所」が存在していました。これを2029年10月より適用事業所の扱いとします(例外あり)。
注…2029年10月の施行時に存在していた事業所については当面期限を定めず適用除外
C 保険料の負担割合に関する特例
Aの適用拡大によって社会保険料の負担が発生するパート従業員の負担割合を折半ではなく会社側が多く負担できる仕組みを3年間限定で設置。会社側には国が支援(2026年10月より)。
(2)在職老齢年金の見直し
働きながら老齢年金をもらう制度のことを「在職老齢年金」といいますが、一定以上の報酬がある場合は支給が一部または全部が支給停止となる仕組みになっています。この支給停止となる金額の基準額を引き上げることになりました(2026年4月より)。
(3)遺族年金の見直し
遺厚…遺族厚生年金、老厚…老齢厚生年金、【 】は有期の給付
参考:厚生労働省 年金制度法改正の概要 https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001496971.pdf
注1)最終形(下段)の表では、5年経過後も有期給付加算(給付の継続)となっていますが、これは継続の必要があると認められた場合のみで、原則は支給開始後5年経過時点で支給終了となります。
注2)「既に受給権を有する方」「60歳以降の高齢の方」「20代から50代の18歳未満の子のある方」は改正の対象外とされています。
(4)厚生年金の標準報酬等級の引上げ
現在の厚生年金保険料の上限は標準報酬月額65万円ですが、この上限額は68万円、71万円、75万円と段階的に引き上げられます(68万円への引上げは2027年9月)。
(5)基礎年金の給付水準の引上げ
基礎年金の底上げ措置が必要だと考えられていますが、基礎年金の財源の半分は国庫負担となっているため、その財源の確保が必要です。これについては次期財政検証(4年後)の結果を踏まえ、措置を講じる段階での検討とされましたので、結論は先送りとなった形です。
(6)個人型確定拠出年金の見直し
個人型の確定拠出年金であるiDeCoの加入年齢を現在の65歳未満から70歳未満に引き上げることとされています(公布から3年以内の政令で定める日)。
ま と め
今回の年金改革は複雑多岐、かつ、施行が複数年にわたっています。自分がもらう頃の年金がどうなるかも気になるところですが、会社担当者としては「社会保険の適用拡大」「保険料負担割合の特例」「厚生年金の等級上限UP」あたりに特に注意を払っていただき、詳細な内容が公表された場合は、必ず確認しておくことが必要になります。
ZEIKEN PRESSコラムの更新情報を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー
特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。
