【ファミリーガバナンス】ゼブラ企業にみる、持続的な繁栄の条件
[あいわ税理士法人 News Letter 2026.1]

【ファミリーガバナンス】ゼブラ企業にみる、持続的な繁栄の条件

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1.はじめに


ビジネスの成⾧と社会貢献を両立させる「ゼブラ企業」が全国で存在感を高めています。

すべてのビジネスは社会にポジティブなインパクトを与えているというパラダイムがある一方で、ビジネスの枠を超えて、より意識的に社会にポジティブなインパクトを与えていこうとするパラダイムが、近年注目を集めつつあります。そうした潮流の中で登場してきた概念が、ゼブラ企業です。

ゼブラ企業は、2017年に4人のアメリカの女性社会起業家によって提唱された概念です。会社の時価総額や急成⾧を重視するユニコーン企業と対比し、社会課題の解決と経済成⾧の両立を目指す企業を、白黒模様で群れを成して行動するゼブラ(シマウマ)になぞらえて命名されたものです。

近年、日本においてもゼブラ企業は注目を集めています。ゼブラ企業に対してその特性に注目したインパクト投融資が行われ、企業の潜在力を引き起こすことで地域課題の解決につなげていこうとする取り組みが、官民の枠を超えて広がりつつあります。

たとえば、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(2023年6月16日閣議決定)では、「地域の中小企業から、地域の社会課題解決の担い手となる企業(ゼブラ企業)を創出し、インパクト投融資を呼び込むため、ソーシャルビジネスを支援する地域の関係者を中心としたエコシステムを構築する」ことが明記されています。ゼブラ企業についての公的な統計は存在しないものの、日本経済新聞社の記事(2025年7月4日付・日経電子版)によれば、社会課題の解決が目的の事業を対象とする「ソーシャルビジネス関連融資」の実績を基に広く推計すると、2024年度のゼブラ企業数は全国で1万7,493社にのぼり、この5年間で1.5倍に増加しています。

こうした流れは、「地方創生2.0基本構想」(2025年6 月13日閣議決定)に示されている方向性とも重なります。地方創生がこれまで自治体単位の個別事業が中心であった取り組みから、「民」の力を活かした官民連携へと軸足を移していく流れの中で、人口減少が進む地域においてゼブラ企業が果たす役割は、今後ますます大きくなっていくと考えられます。

社会の要請として誕生したゼブラ企業ですが、その根底には日本が古くから大切にしてきた「三方よし」の価値観が通底しているようにも見えます。だからこそゼブラ企業には、永く繁栄する何かが備わっているのではないでしょうか。同時に、企業の⾧寿化と短命化の二極化が進む現代において、「どうすれば持続的に繁栄できるのか」という問いは、これまで以上に切実なものになっています。

そこで本稿では、ゼブラ企業を手がかりに、持続的な繁栄の条件とは何かについて考えていきます。

 

2.ゼブラ企業が目指す「持続的な繁栄」とは何か


ゼブラ企業が注目を集めている理由は、単に「社会にやさしい企業」が増えているからではありません。

その本質は、企業の持続的な繁栄の前提条件そのものを、改めて問い直している点にあるのではないでしょうか。

企業の成⾧や繁栄は、これまで主に売上や利益、成⾧率といった経済的な指標によって測られてきました。

もちろん、経済性は企業が存続していく上での不可欠な要素です。しかし同時に、短期的な経済合理性を追い求めた結果、地域との関係が断絶されたり、人材が疲弊したり、事業承継の局面で立ち行かなくなる企業が少なくないことも、私たちは数多く目にしてきました。

ゼブラ企業は、こうした限界に対して、これまでとは異なる問いを立てています。それは、「どうすれば勝ち続けられるか」ではなく、「どうすれば必要とされ続けるか」という問いです。この問いは、企業経営が経済か社会かといった二元論を超えていくための、出発点でもあります。

ここで言う「持続的な繁栄」とは、単に企業が存続し続けることを意味しません。社会や地域からの信頼を失うことなく、世代を超えて価値を更新し続ける状態を指します。経済性と社会性を切り離すのではなく、両者を統合しながら、相利共生の関係を育んでいく。ゼブラ企業は、そのような繁栄のあり方を、理念ではなく「経営の構造として実装」しようとしているのです。

この点は、ユニコーン企業とゼブラ企業との違いからもよくわかります。ゼブラ企業の目的は持続的な繁栄にありますが、その目的を実現するために、企業として「どのように行動するのか」、「だれが価値創造を担うのか」、「何を成果として測るのか」といった構成要素を、あらかじめ細かく、かつ、明確に設計します。

つまりゼブラ企業は、「大きな意味で世の中の役に立ちましょう」と抽象的に語っているわけではありません。
複数の主体が共に生き、共に存続するという覚悟と決意を、経営の構造として実装している。そこに、ゼブラ企業の本質的な特⾧があると言えるでしょう。

 

3.なぜゼブラ企業は「シンプルなこと」を実践し続けられるのか


企業経営において、人材を最優先に考えることが重要であるという点に、異論を唱える人はほとんどいないでしょう。従業員の労働意欲やエンゲージメントが高い企業ほど、生産性が高く、業績も安定しやすい。

また、組織として学習する力や協働する力が高まることで、環境変化への対応力も向上する。こうした関係性は、多くの調査や実証研究によって、すでに繰り返し示されています。

それにもかかわらず、多くの企業では、人材を最優先に考える経営が⾧続きしません。競争が激しくなるほど、短期的な成果が求められるほど、「人を大切にすること」は後回しにされがちです。ここに、「分かっているのに、実践されない」という経営のパラドックスがあります。

この点で、ゼブラ企業は例外的な存在に見えます。ゼブラ企業は、人材を重視するという“シンプルなこと”を、競争環境の中でもあきらめずに実践し続けています。では、なぜそれが可能なのでしょうか。

(1) 「人を大切にする」は理念ではなく、生存条件である

ゼブラ企業において、人材を大切にすることは、理想論や価値観の表明ではありません。それは、ゼブラ企業が存続するための前提条件として位置づけられています。
ゼブラ企業は、利益を最大化することを唯一の目的にはしていません。もちろん利益は重要ですが、それはあくまで事業を継続し、次の挑戦を可能にするための条件に過ぎません。その前提に立つと、人材は「コスト」ではなく、「価値創造の主体」となります。
人が疲弊すれば組織力は低下し、信頼は損なわれ、結果として持続的な繁栄が脅かされます。ゼブラ企業では、人材を大切にすることが善だからではなく、そうしなければ社会に必要とされる存在として⾧くあり続けることができないことから、それが実践され続けるのではないでしょうか。

(2) 人材優先の経営が生む、模倣困難性

人材を最優先に考える経営は、短期的には非効率に見えることがあります。しかし、この「遠回り」に見えるプロセスこそが、ゼブラ企業の強さの源泉になっています。人と人との信頼関係、組織内に蓄積された暗黙知、協働の文化は、技術や戦略のように簡単には模倣できません。時間をかけて育まれた組織力や組織文化は、企業にとって極めて強固な競争優位になります。
この点は、ファミリービジネスにも共通します。⾧寿企業の多くは、特定の商品や技術ではなく、人を育て、関係性を大切にしてきた文化そのものによって支えられてきました。それは、数字には表れにくいものの、承継や世代交代の局面において企業価値を大きく左右します。

(3) なぜ多くの企業では、それが続かないのか

では、なぜ多くの企業では、人材優先の経営が続かないのでしょうか。その理由は、経営者の意識や能力の問題というよりも、企業の内外に存在する「構造」に問題があるのではないでしょうか。
短期的な業績評価、競争中心の世界観、経済的効率性の重視、トップに集中した意思決定。こうした構造のもとでは、人材への投資は「余裕があるときに行うもの」になりがちです。結果として、経営が特定の個人に依存し、組織としての厚みが育ちづらくなります。
その延⾧にあるのが、事業承継の難しさです。判断がトップに集中している企業ほど、後継者は育ちにくく、経営者自身も「退く」ことができなくなります。

(4) ゼブラ企業が可能にする、世代交代の構造

ゼブラ企業では、人材を最優先に考える経営が、結果として経営リーダーの世代交代を可能にする構造を生み出しています。
従業員が自律と協働を行う環境が整うことで、一人ひとりが主体として育っていきます。その結果、責任を引き受けるリーダーが組織の中に増え、特定の人物に依存しない構造へと変化していきます。こうした構造は、経営者がいなくなっても企業が続く状態をつくります。
人材を最優先に考える経営は、模倣しにくいばかりではなく、経営者の世代交代を可能にすることで、持続的な繁栄への道を開いていると言えるでしょう。

(5) シンプルなことを、構造として実装する

ゼブラ企業が実践していることは、決して特別なことではありません。人を大切にし、関係性を育み、⾧期的に物事を考える。多くの経営者が正しいと知っている、極めてシンプルな原則です。
しかしゼブラ企業は、それを精神論に終わらせず、経営の構造として実装している点で、他の企業と決定的に異なります。だからこそ、環境が厳しくなっても、競争が激しくなっても、「シンプルなこと」を手放さずにいられるのです。
シンプルな考え方を実践するには、何ごとも⾧い目で見ることが大切です。ゼブラ企業は、お金で時間を買うのではく、時間を掛けないとできない価値を大切にします。だからこそ、何ごとも⾧い目で捉え、シンプルなことを積み重ねていくことができる構造をもっていると言えます。
そして、ゼブラ企業の特⾧のひとつは「⾧期的でインクルーシブな経営姿勢である」と言われます。インクルーシブな経営とは、マルチステークホルダー経営とも表現されますが、それは株主を一番下に置くことでもあり、従業員を最も大事にする経営を志向することと言えます。そうした経営姿勢は、結果として株主が高いリターンを持続的に得ることを可能にします。
まさに、多くの経営者が正しいと思っているシンプルな原則を実践しているのが、ゼブラ企業なのです。

 

4.動的平衡としてのゼブラ企業


ゼブラ企業を理解するうえで欠かせない概念のひとつが、動的平衡です。動的平衡とは、変化を抑え込んで安定を保つことではなく、変化を内包しながらバランスを取り続ける状態を指します。そしてこの考え方こそが、ゼブラ企業が永く繁栄し得る条件を形づくっているのではないでしょうか。

特にローカルゼブラ企業を見ていると、この動的平衡の考え方が、地域内のさまざまな関係者を巻き込みながら社会課題解決に取り組んでいくうえで、重要な役割を果たしていることが分かります。自治体、住民、NPO、金融機関、既存企業。立場も利害も異なる関係者が関わる中で、一方の利益だけを最大化しようとすれば、関係はすぐに破綻してしまいます。

ローカルゼブラ企業がうまくいく理由は、「企業か地域か」という二者択一をしない点にあります。ゼブラ企業は、地域社会と企業との関係を、静的なバランスではなく、動的なバランスとして捉えています。つまり、ひとつが残るためには、全体が残らなければならない。この原則に基づいて、関係性を動的に調整し続けているのです。

しかし、動的平衡は単なる経営技法ではありません。その根底には、利他性を前提とした態度が存在しています。動的平衡は、利他性を生み出し、同時に利他性によって支えられています。この循環を理解することが、ゼブラ企業の本質を理解する鍵になります。

(1) 矛盾を引き受けることが、利他性を生む

企業経営は、常に矛盾に満ちています。新しい価値を生み出さなければならない一方で、これまで築いてきた強みや関係性を守らなければなりません。経済的な成果を求めながら、同時に社会や地域への責任も果たさなければなりません。
こうした矛盾に直面したとき、多くの企業はどちらかを選び、どちらかを犠牲にする判断を下してきました。その結果、短期的には合理的でも、⾧期的には関係性が損なわれ、企業としての持続可能性が低下していくケースも少なくありませんでした。
ゼブラ企業は、経済か社会か、成⾧か安定かといった二元論を超え、矛盾を解消するのではなく、矛盾を引き受け続けるという姿勢に立っています。この「引き受ける」という態度は、本質的に利他的です。ステークホルダーや将来世代への影響を想像しながら、あえて複雑で険しい道を選ぶ。ローカルゼブラ企業が地域内の多様な関係者と協働できるのは、この利他性が経営の前提に組み込まれているからだと言えます。
矛盾を引き受け続けるという動的平衡の姿勢は、企業を「自分だけが生き残る存在」ではなく、全体の中で生かされ、生かし続ける存在へと変えていきます。

(2) 動的平衡によるミッション・ロック

動的平衡の経営において、ゼブラ企業が特徴的なのは、価値を生み出し続けながら、同時に、自らの前提を壊し続けるという姿勢です。「つくりながら、壊す」という姿勢は、経営に利他性があり、利他性に支えられているから成立する態度だと言えます。もっとも、壊すことだけを続ければ、企業は方向性を失ってしまいます。動的平衡が成立するためには、常に立ち戻ることのできる軸が不可欠です。
ゼブラ企業において、その軸となっているのが、企業のミッション、パーパスです。なぜこの企業は存在しているのか。誰のために、何のために存在しているのか。大切なことは、ミッションが企業を縛りつける「固定点」ではないということです。ゼブラ企業が目指そうとしていることは、静的なミッション・ロックではなく、動的平衡によるミッション・ロックなのです。
ミッションそのものは揺るがない。しかし、その実現の方法や事業の形は、社会や地域の変化に応じて更新され続ける。だからこそ、ゼブラ企業は変わらないために、変わることができます。
この循環が、ミッションドリフトを防ぎながら、同時に経営の硬直性を回避していくことにつながります。

(3) 動的平衡は、なぜ持続的な繁栄につながるのか

二元論を超え、矛盾を引き受け、利他性に支えられながら、つくり、壊し、立ち戻り、更新し続ける。
この営みは、短期的な合理性では説明できません。しかし、⾧い目で捉えれば、環境変化や世代交代に耐え得るしなやかな強さを企業にもたらします。つまり、企業にレジリエンスをもたらします。
動的平衡は利他性を生み、利他性はスチュワードシップ(企業や資産を自分の所有物ではなく、世代を超えて守り、発展させ、社会に役立てるために神あるいは家族、社会、将来世代から託されたものとしての責任を果たす経営哲学)を育み、スチュワードシップがまた、企業と地域を未来につなぎ続ける。
この循環にこそ、ゼブラ企業が持続的な繁栄へと至る理由があるのではないでしょうか。

 

5.最後に


今回はゼブラ企業を手がかりに、企業が永く繁栄するための条件について考えてきました。

ゼブラ企業は、日本の「三方よし」の理念と価値観を、単なる精神論ではなく、経営の構造として実装している点に特⾧があります。その意味で、ゼブラ企業は、これからの地域社会の発展に欠かせない存在として、今後ますます裾野が広がっていくことが期待されます。

これまで、地域の社会課題解決の中心には、自治体やNPO、市民が位置づけられ、民間企業が中心的な役割を担うのは難しいと考えられてきました。しかしゼブラ企業は、その限界を静かに乗り越えようとしています。彼らは、「企業は誰かの所有物である」という近代企業の見方そのものを問い直しています。企業の前提を書き換えていくことで、資本主義の「すきま」を埋めていこうとしています。

この視点に立ったとき、すべての経営者に共通して突き付けられる問いがあります。それは、「自社が誰のため、何のために存在している企業なのか」という問いです。

事業承継対策や資本政策、ガバナンスの設計は、本来この問いを制度として形にする営みです。私たちは、ゼブラ企業に見られる持続的繁栄の条件を、理念にとどめるのではなく、ガバナンス設計、承継対策、資本政策として具体的に実装する支援を行ってまいります。

 


筆者:野原 邦亮

 

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