○はじめに

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)がビジネスの中心課題として取り上げられ、様々な技術革新が進行しています。しかし、業務のDX化を進めていくためにはそれなりの準備が必要です。DXというと、古いシステムを一掃して、全部を新しいものに取り換えるようなイメージをもたれている方もいるようですが、急にすべてを切り替えられる魔法のシステムがあるわけではないのです。準備不足のままシステムだけを導入しようとして費用だけ嵩んで失敗する例は珍しくありませんし、何もしないままでいてはビジネスの変化についていくことができず、現場がどんどん疲弊していく事態にもなりかねません。
そして、多くの企業では日常業務においてExcelが広く活用されている現状があります。経理部門においても、Excelは伝票作成や分析、レポーティングなどに不可欠なツールとして使用されています。DXへの流れの中で、脱Excelという考え方もあるようですが、むしろ、現在の実務に根差しているExcelを上手に活用することで、DX化への足掛かりとすることができるのではないかと考えています。

本企画の意図は、経理部門の業務効率化を推進することにあります。その足掛かりとして、Excelの重要性を再認識し、その活用方法を身につけることを目指す初心者向けのガイドとなることを目指しています。DXが進展する中で、新たなツールやシステムの導入も重要ですが、既に身近に活用されているExcelを十分に理解し活用することで、業務効率化や意思決定の質の向上につながり、組織全体のパフォーマンス向上に繋がると考えています。

そのため、本稿では経理部門に配属された経理初心者・Excel初心者を想定し、まずはExcelに慣れてもらうところからスタートし、Excelを使いこなしていく過程で生じる素朴な疑問に焦点を当てています。
長年、経理の現場に深くかかわってきた筆者の経験に基づき、初心者が陥りやすい状態や、多く受けてきた質問などを元に50の具体的な「悩み」を先輩社員との会話形式で取り上げたうえで、その解決方法を解説しました。初めて業務でExcelを使用するところから、実際に入力をしたり、見た目を整えたり、といった段階に応じて並べていますが、気になる項目から読んでいただいてもかまいません。
重要なのは、漫然と仕事をするのではなく、「どうしたら手間を減らせるか」「ミスをなくせるか」「時間を短縮できるか」を常に考え、それを形にしていくことです。

経理業務の効率化や精度向上、さらには戦略的な意思決定の支援など、経理部門に求められる役割は多く、どれも重要なものです。本稿が、その役割を果たすためのきっかけになれば幸甚です。


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【執筆者紹介】

福原 俊(ふくはらしゅん)
公認会計士 管理会計ラボ株式会社 取締役

2002年に公認会計士試験に合格したのち、監査法人トーマツ(当時)にて監査業務に従事。2011年より10年超、大正製薬㈱、CBグループマネジメント㈱など上場会社3社に勤務。スタッフから経理部長・経営管理室長を含む管理職まで多様な立場を経験しつつ、幅広い業務に従事。
その後、管理会計ラボ株式会社に参画し、セミナー講師、雑誌の執筆に活躍中。オンラインヨガ企業の社外監査役にも従事。
事業会社での豊富かつ多様な実務経験を生かし、制度会計を活かした管理会計制度の構築、早期化と正確性向上を同時に達成する経理の業務改善といった「実務家会計士」ならではの業務領域を得意とする。
千葉大学法経学部卒業。グロービス経営大学院修了(MBA)。

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