【カスハラ対策強化等を内容とする労働施策推進法等改正案国会へ】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第27回
2025年3月25日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
2025年1月24日より、第217回通常国会が開催されていますが、労働法に関連するものとしても、カスタマ―ハラスメント対策の強化等を内容とする「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案」が3月11日に提出されました。この法案が成立すれば事業主はカスハラ防止対策の実施が義務付けられることになり、労働者側からの関心も高い内容となっています。まだ法案の段階ではありますが、今後の進捗に注意していただきたいと思います。
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カスハラ対策強化等を内容とする労働施策推進法等改正案国会へ
改正の概要
今回の法改正は、多くの労働者が活躍できるような職場環境の整備を目指しています。具体的には「ハラスメント対策の強化」「女性活躍の推進」「治療と仕事の両立支援の推進」の3つの柱で構成されています。
1. ハラスメント対策の強化
今回のハラスメント対策の対象は、以前より予想されていた「カスタマーハラスメント」(カスハラ)に対する企業側の対策だけではなく、企業に応募してくる求職者への「セクシャルハラスメント」の防止措置が盛り込まれています。
2. 女性活躍の推進
期限が決められている「女性活躍推進法の10年延長」をはじめとして、「男女間の賃金格差」「女性管理職の比率」等の改善、女性に対する「健康上の配慮」や「ハラスメント対策」が含まれている他、国や地方公共団体の「特定事業主」まで対象としています。
3. 治療と仕事の両立支援の推進
事業主に対し、疾病・負傷等により治療を受けながら働いている労働者の仕事との両立を支援するための体制整備等を講ずることを努力義務としています。
以下、上記改正事項につき内容を検証していきます。
ハラスメント対策の強化
A カスタマーハラスメントの防止
事業主に対して、雇用している従業員が職場においてカスタマーハラスメント(注)によって就業環境が害されることのないように、【1】相談に応じる、【2】必要な体制整備、【3】その他必要な措置、を講じなければならないとされています。
注:カスタマーハラスメント 職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業関係が害されること。 |
なお、事業主には、労働者が上記の相談をしたことによる解雇その他不利益取扱いの禁止、他の事業主から協力を依頼された際に応じること(努力義務)、とされている他、厚生労働大臣は事業主が講ずべき措置等について、適切かつ有効な実施を図るために「必要な指針を定める」とされていますので、改正後はこの指針の対応がカギになるものと考えられます。
B 求職者等に対するセクシャルハラスメントの防止
事業主は(自社等に応募してきた)求職者等が、自社の従業員から「性的な言動」によって、求職活動等が阻害されないように、【1】相談に応じる、【2】必要な体制整備、【3】その他必要な措置、を講じなければならないとされ、やはり厚生労働大臣は指針を定めるとされています。
また、国、事業主、労働者、の責務も明確化するとされ、このうちの事業主については、自社の従業員が求職者等に対する言動に必要な注意を払うよう「研修の実施」その他の必要な配慮をしなければならない(努力義務)、とされていますので、従業員教育が必要だと考えられていることがわかります。
女性活躍の推進
A 公表義務の適用拡大と期間延長
女性の職業選択に役立つように「男女の賃金額の差」と「管理職に占める女性労働者の割合」の公表を労働者数が101人以上の事業主に義務付けるのと共に、女性活躍推進法の有効期限を10年延長し、令和18年3月31日までにする、とされています。「賃金額の差」については2022年7月に労働者301人以上に初めて義務付けられたものですが、これが101人以上にまで拡大されることになります。
B 健康上の配慮とハラスメント対策
女性が職場での活躍を推進させるために、「女性の健康上の特性」を加えることとされ、今後、明確化するとしています。また、女性活躍推進に関する基本方針に「職場において行われる就業環境を害する言動に起因する問題解決」をあげており、具体的にはハラスメントが挙げられる見込みです。
C 「プラチナえるぼし」に求職者対応の公表も
女性活躍推進について一定の基準を満たした企業を認定する「えるぼし」を取得した企業の中で、特に優良な企業として認定されるのが「プラチナえるぼし」です。この認定条件の一つに、今回の求職者に対する「セクシャルハラスメント防止」に関する措置内容を公表していることが加えられる予定です。
<「プラチナえるぼし」の現行の要件>
○策定した一般事業主行動計画に基づく取組を実施し、当該行動計画に定めた目標を達成したこと。
○男女雇用機会均等推進者、職業家庭両立推進者を選任していること。(※) ○プラチナえるぼしの管理職比率、労働時間等の5つの基準の全てを満たしていること。(※) ○女性活躍推進法に基づく情報公表項目(社内制度の概要を除く。)のうち、8項目以上を「女性の活躍推進企業データベース」で公表していること。(※) ※実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表することが必要 |
治療と仕事の両立支援の推進
疾病・負傷等により治療を受けながら働いている労働者の仕事との両立を支援するため、働くことによって疾病・負傷等の症状が悪化すること等を防止し、「治療と就業の両立を支援するため」【1】相談に応じる、【2】必要な体制整備、【3】その他必要な措置、に努めなければならない(努力義務)とされています。
ま と め
現段階では改正案ですが、成立した際には事業主が行うべき責務となります。
なお、施行日は公布の日から1年6か月以内で定める日とされていますが、女性活躍推進法の延長と健康上の配慮等は公布日、男女間の賃金格差・管理者比率及び治療と仕事の両立支援については令和8年4月1日を予定しています。
また、カスハラ対策については、2025年4月より東京都が「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行する予定で、自治体の取組みも進んでいます。さらに1月には「カスタマーハラスメントの防止対策の推進に係る関係省庁連携会議」が設置されるなど、厚生労働省だけではなく、関係省庁と連携した動きもあることから、引き続き今後の動向を注視していく必要があるでしょう。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。
