【熱中症対策義務化~令和7年6月より】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第29回
2025年5月26日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
5月だというのに早くも最高気温が30度に達する地域もでてきました。今年の夏も酷暑が予想されますが、まるでこれを予見していたかのように令和7年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行されます。この施行により会社には「職場の熱中症対策が義務化」されますので、具体的な対応はもちろんのこと、改めて熱中症に関して正しい知識を身につけておきましょう。
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熱中症対策義務化~令和7年6月より
死亡につながる熱中症の「放置・対応遅れ」
厚生労働省のパンフレット「職場における熱中症対策の強化について」によると、熱中症は死亡に至る割合が他の災害の5~6倍もあり、その大半が「初期症状の放置・対応の遅れにあるとされています。
熱中症の発生リスクに関する基準
熱中症対策が必要とされる対象現場は下記とされています。
「WBGT値*(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境で |
*WBGT基準値:Wet Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)の略称で、気温のほか、湿度と輻射熱の数値も取り入れた温度の指標(単位:℃)。
昨今の我が国の気温状況を考慮しますと、かなり多くの日が該当するものと推測されます。
WBGT値については、多くの携帯型「WBGT測定器」が販売されており、一定基準に達すると音でアラートを発してくれるものがあります。また、熱中症予防情報サイト(環境省)でも公表されていますので、状況に応じて活用しましょう。
熱中症の症状と重症度分類を知っておく
熱中症は下記のように「具体的な症状」によって「重症度」が分類されています。
前述の通り、初期対応の遅れが死亡事故につながるケースも多いことから、早期発見が重要になってきます。
<基本的な考え方>
熱中症の恐れのある者に対する処置の例(フロー図)
職場における対応義務
熱中症の重篤化を防止するために以下が会社に義務付けられています。
A<体制整備>
会社において
「熱中症の自覚症状がある作業者」「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」が、その旨を報告するための体制整備* *緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等の整備 |
B<手順作成と関係者への周知>
上記のフロー図を参考に下記のような手順・対応例を会社で作成
【①おそれのある者を発見 ②作業離脱、身体の冷却 ③必要に応じて「医師の診察」または「救急隊の要請」 ④緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等の情報活用】 |
C<関係者への周知>
上記A、Bの内容を関係者に周知しなければなりません(周知方法の検討)。
ま と め
今回の改正は、従業員等に熱中症や熱中症が疑われる事態が発生した際の、「事前の体制整備」「発生時の対応手順作成」「関係者の周知」を義務付けたものですので、この対応をせずに熱中症が重症化した場合は会社責任が問われる可能性があります。また、上記手順例の「身体の冷却」とは具体的にどう行うのか(作業服を脱がせ、ホースで水を直接かける等)、1人で作業中に気分が悪くなった場合の行動例、など実際の現場を想定して決めておくことをお勧めいたします。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。
