【130万円の壁対策には〝書式見直し〟が必須】
| 働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第39回

2026年3月13日

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

令和8年4月の新年度がすぐ目の前までやってきていますが、ここにきて労働条件通知書(又は雇用契約書等)が新ルールに対応しなければならないことが話題になっています。今回は、現時点で分かっている範囲で、記載上の注意点などを確認していきます。

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これまでの130万円の壁の判断

以前から「130万円の壁」と呼ばれる年収上の分岐点についてはよく話題に上っていました。これは、一定の金額よりも収入があると社会保険の扶養の範囲から外れて自分自身で社会保険に加入しなければならなくなるため、加入したくないパートタイマー等は意図的に労働を抑制してこの金額の壁を超えないようにしてきたというものです。

ところがこの「130万円」は年収といいながらも実際は扶養加入時点での将来(この先1年間)の見込みの金額で判定することとされているため、繁忙期にシフト追加や残業が連続して増加したり、予想外に賞与等の一時金が支給されたりすると扶養の範囲から外れるリスクがありました。

 

 

新ルールの導入

令和8年4月1日より新たなルールが導入されることになりました。新たなルールとは労働条件通知書(及び雇用契約書等)に記載された賃金額をもとに年収額を判断するというものです。このルールは以下のようなメリット・デメリット及び注意すべきポイントが考えられます。

メリット デメリット
  • 基準の明確化とリスク低減(主に労働者側)
    従来までは想定外の残業等があると扶養の対象外となるリスクがありましたが、今後は残業を見込む場合は計画的に、見込まない場合は社会通念上妥当な範囲であれば被扶養者の扱いのままでよいとされています。
  • 書式整備と運用管理(会社側)
    労働条件通知書(又は雇用契約書等)を新ルール基準に合わせたものを用意し、運用も契約に合わせる必要があります。また、労働条件が変更になれば都度、書式も変更する手間が発生します。

 

【特に注意すべきポイント】
 A 通勤手当の取扱い 全額が収入に換算されますので、年収額の中に含めておく必要があります。
 B 残業代等 (見込む場合)「月〇時間程度の時間外労働(残業)を見込み、年○○万円程度を支給予定」等を具体的に記載。
(見込まない場合)「残業なし」。*突発的な残業について当年度は「一時的」と許容されるが、あくまで社会通念上妥当な範囲とすべき。
 C 年収の上限額 *前提条件「給与収入のみ」(年金、不動産収入等は対象外)
一般の方 130万円未満
60歳以上・障害者 180万円未満
19歳以上23歳未満の親族(被保険者の配偶者除く) 150万円未満

 

 

具体的な計算シミュレーション

ここで状況に応じた年収見込の実際の計算例を考えてみましょう。

【計算式例(時給×月間所定労働時間+通勤手当+諸手当)×12 + 賞与(年額)+ 残業代(書面に記載がある場合のみ】

条件・計算結果 認定
 A 標準的なパートの例 時給)1,250円 月所定)80時間 通勤手当 月5,000円

賞与)なし 所定時間外)記載なし(見込まない)

(1,250×80+5,000)×12=1,260,000円

 認定OK

 130万未満

 B 通勤手当が高額な場合の例 時給)1,250円 月所定)80時間 通勤手当 月15,000円

賞与)なし 所定時間外)記載なし(見込まない)

(1,250×80+15,000)×12=1,380,000円

 認定NG

130万以上

 C 残業見込記載例 時給)1,300円 月所定)70時間 通勤手当 月5,000円

賞与)なし 所定時間外)月10時間見込(1.25倍)

{(1,300×70+5,000)×12}+残業(1,625×10時間×12)=1,347,000円

 認定NG

130万以上

 D 賞与がある場合の例 時給)1,250円 月所定)80時間 通勤手当 月4,000円

賞与)夏冬各50,000円(計100,000円)支給予定

(1,250×80+4,000)×12+100,0001,348,000円

 認定NG

130万以上

上記の結果のように、本来の労働時間部分に対する賃金額であれば130万円未満に収まるケースでも、通勤手当が高額であるとか、残業や賞与が見込まれるような場合には130万円以上となるケースがあるため130万円未満という希望が労働者にある場合、事前のシミュレーションが必要になります。

 

 

労働条件通知書(又は雇用契約書等)の重要箇所記載例

新ルールに対応するためには年収額が上限内であることが必須になりますが、パートタイマーは賃金が時給制であることが多いため、一か月の労働時間の見込み時間数が重要になります。ところが一か月の見込み労働時間数は夏季休業や年末年始など増減があることが多いため、面倒でも年間の所定労働日数を算出し、12で割った数字を月平均日数として算出しておくと、計算がしやすく、誤差も少なくなるものと思われます。

以下に記載例を掲載しますので参考にしてください。

始業・終業時刻 始業9:00 終業15:00(休憩12:00~13:00)1日5時間
勤務日 週4日 *月平均16日程度
 

賃金

基本賃金:時給1,250円
通勤手当:月5,000円(または 実費 上限 月5,000円まで)
時間外労働:■原則として命じない(見込まない)

□見込む(月〇時間程度、年○○,000円程度)

賞与・退職金 賞与(なし)退職金(なし)
年収見込額

(参考)

約1,260,000円【130万円の壁判定基準額未満】

算出式(時給1,250円×月約80時間+通勤手当5,000円)×12ヶ月+賞与0円

 

 

 

まとめ

今回は130万円の壁、新ルール対策用の労働条件通知書(又は雇用契約書)について、現時点での記載上注意点について取り上げました。担当者の方は新ルールの目的と要対応箇所をご確認いただき、対象となる方の書面対応に役立ててください。

なお、今後、行政からの詳細なリーフレット等が出されると思いますので、その場合は内容を確認した上で対応をお願いします。

 

 

 

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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