貸借対照表から読み取る儲けの仕組みの違い
~日本を代表する百貨店運営企業である、丸井グループと三越伊勢丹HDの比較~

2022年8月23日

 

 

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0.はじめに

決算書分析の基本は「比較」です。ある数字を見る際に、比較対象がなければ、その数字がいいのか・悪いのか、そもそも判断ができませんよね。だからこそ、決算書分析においては必ず2つ以上の数字を使って比較する必要があります。

実際どのように比較していくのかという話になるわけですが、この比較分析には大きく2つの方法があります。1つの企業を時系列で見る「時系列分析」と、他の競合とを比較して見る「競合比較分析」です。すぐれた分析には必ずといっていいほど含まれるこの2種類を、この記事を通じて紹介します。

今回は、日本を代表する百貨店運営企業である、丸井グループと三越伊勢丹HDを比較しながら、両者のビジネスの共通点や相違点についてを理解し、決算数値にどのような違いが現れるのかを順を追って解説していきます。

 

 

 

1.テーマ企業の紹介

今回の登場企業は、丸井グループと、三越伊勢丹HDです。それぞれの共通点と相違点を整理しながら、決算数値やコロナ禍での影響の違いを見ていきます。

 

百貨店ビジネスの基本

そもそも百貨店とは、「1つの企業が複数の分野の専門店を統一的に運営し、それら専門店を面積が広い大規模な店舗に集約し多種類の商品を展示陳列して販売する小売店」のことをいいます。三越伊勢丹HD、丸井グループも、百貨店を自社で運営しているという共通点があります。

一方、両者の事業内容を確認してみると、同じ百貨店運営企業でも、売上の内訳に差が存在します。まずは両者の事業内容についてを紹介します。

 

三越伊勢丹HDの事業内容

三越伊勢丹HDの売上高の内訳を確認すると百貨店事業の売上が約8割を占めています。百貨店事業は、 三越・伊勢丹・岩田屋・丸井今井の4つの暖簾を持ち、国内・海外25社の百貨店企業で構成されています。

また、百貨店事業以外にもエムアイカードを運営する金融事業や、建装やリノベーション事業を手掛ける不動産事業等も営んでいますが、売上規模としては10%以下となっています。

出典:三越伊勢丹HD 有価証券報告書(2021年3月期)

 

丸井グループの事業内容

丸井グループは大きく2つのセグメントを有しています。1つは、衣料品・装飾雑貨の仕入販売や、百貨店等の商業施設の賃貸・管理を行う小売事業です。もう1つはクレジットカード業務やカードキャッシング、家賃保証等を行っているフィンテック事業です。

丸井グループは百貨店の印象を持つ方も少なくないと思いますが、売上の内訳を見るとフィンテック事業が半分以上を占めていることがわかります。

出典:丸井グループ 有価証券報告書(2021年3月期)

 

 

 

2.数値から読み取る相違点

ここからは両者の事業内容の違いを決算数値にどのように反映されるかを確認していきます。まずは両者の貸借対照表を元に、保有資産の違いを見ていきます。

貸借対照表とは、企業の財政状態や、資金調達と運用の情報を伝える報告書です。

貸借対照表を見ることで、企業がどのような状態であるかを知ることができます。

出典:FundaNavi https://navi.funda.jp/article/balance-sheet

 

両者の貸借対照表の違い

三越伊勢丹HDと丸井グループの貸借対照表を比較すると、百貨店事業を営む共通点があるものの、資産の持ち方が大きく異なることが読み取れます。

三越伊勢丹HDは固定資産が大きく、丸井グループは流動資産が大きい特徴があります。それぞれどのような資産を保有しているのでしょうか。

 

三越伊勢丹HDの決算数値

三越伊勢丹HDの貸借対照表を見るとわかる通り、固定資産が非常に厚い会社になっており、この大部分は建物・土地といった有形固定資産で構成されています。

出典:三越伊勢丹HD 有価証券報告書(2021年3月期)

 

それでは、この有形固定資産の中身は一体何なんですか?と気になる方もいらっしゃると思います。

有価証券報告書では、保有設備の情報を開示しているため、固定資産の中身を見てみると、百貨店の店舗に関する土地や建物ということがわかります。特に土地に関しては、銀座や新宿、日本橋のような一等地に保有していることからも、非常に多額な金額となっています。

このように三越伊勢丹HDは百貨店事業がコア事業であるため、百貨店の運営に必要となる土地や建物が貸借対照表の資産に多額に反映されています。

出典:三越伊勢丹HD 有価証券報告書(2021年3月期)

 

丸井グループの貸借対照表

次に、丸井グループです。丸井グループは貸借対照表を見てもわかる通り、資産の大部分は割賦売掛金や営業貸付金といった金融資産で構成されています。割賦売掛金は、リボ払いや分割払い等の販売方法で生じた売掛金を意味します。簡単に言うと、丸井グループが将来現金で受け取ることができる金額のことを表しています。

丸井グループの売上高はフィンテック事業で構成されており、この割賦売掛金や営業貸付金はフィンテック事業を運営するに伴って必要となる資産となります。

出典:丸井グループ 有価証券報告書(2021年3月期)

 

数字から読み取るコロナ禍での業績

同じ百貨店を運営している会社でも、事業内容によって、資産の持ち方が大きく異なることがわかりました。それでは、ここからは両者のコロナ影響についてを見ていきます。

百貨店業界はコロナ影響を特に受けた業界の1つでもあります。三越伊勢丹HDと丸井グループの決算数値から、どの程度影響を受けているのかを紹介します。

※損益計算書の概要

出典:FundaNavi https://navi.funda.jp/article/profit-and-loss-statement

 

三越伊勢丹HDの損益計算書

三越伊勢丹HDの売上高と営業利益率の推移を確認すると、コロナ影響を特に受けた2021年3月期決算は売上高、営業利益ともに大きく減少していることがわかります。

百貨店事業は、店舗にお客さんが来ることが前提となるビジネスであるため、客足が減ってしまうと業績に直結します。

従って、三越伊勢丹HDはコロナの影響を大きく受けていることが読み取れます。

出典:三越伊勢丹HD 有価証券報告書(2021年3月期)

 

丸井グループの損益計算書

一方、同じ百貨店でも丸井グループは黒字を維持していることが読み取れます。最もコロナの影響を受けた2021年3月期決算は、売上高、営業利益共に減少してはいるものの、三越伊勢丹HDとは異なり黒字を継続して維持しています。

出典:丸井グループ 有価証券報告書(2021年3月期)

 

丸井グループは、クレジットカードやキャッシング業務といった、比較的高収益のビジネスを展開しているため、売上高が多少減少しても、損益分岐点が低く黒字を維持することができています。

また、客足が減ると業績悪化に直結する百貨店事業と異なり、フィンテック事業はストック収益が中心となります。従って、多少コロナ影響は受けつつも、三越伊勢丹HDに比べると影響は軽微となっています。

 

 

 

3.まとめ

以上、お付き合い頂きありがとうございました。このように、同じ百貨店運営企業でも、ビジネスモデルや資産の持ち方が大きく異なることがわかります。決算書を読むことで、日常生活では気付けない企業の儲けの仕組みを知る切っ掛けにもなると同時に、ビジネスの面白さを知ることができます。

この記事を読んで下さった方は、ぜひ興味のある企業の決算書を確認してみてください。

 

 

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大手町のランダムウォーカー

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公認会計士試験合格後,PwCあらた有限責任監査法人で財務アドバイザリー業務に従事。独立後,会計及びマーケティングに関するコンサルティング業務をメインに行うと同時に,学習アプリ「Funda」を運営。
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著書『世界一楽しい決算書の読み方』(KADOKAWA)、続編『世界一楽しい決算書の読み方〔実践編〕』(KADOKAWA)は、シリーズ累計30万部突破。

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