ポルシェで訪問診療したら経費になるか
【医師・歯科医師のための 「税金」と「経営」のエッセンス】

2022年11月28日

 

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経営者である医師・歯科医師の皆さまは日頃より
・「税金」や「経営」について有利な選択はどちらだろうか
・「経営」を盤石にするにはどうすればいいだろうか
と常に悩まれていると思います。
しかし、正しい判断をするためにはその本質や仕組みをきちんと理解しておく必要があります。

本コラムでは、現場に密着したテーマを取り上げ、シミュレーションや事例を多数用いながら、医業の「税金」と「経営」についてわかりやすく解説しています。

税金の仕組みの本質を正しく理解したい、また、サステイナブル経営を実践したいとお考えの医師・歯科医師の皆さまはもちろん、医療機関を顧問先に持つ税理士、税理士事務所の職員にも是非読んでいただきたいエッセンスの詰まった内容となっております。

 

 

ポルシェで訪問診療したら経費になるか

 

1 「証拠」をもとに「事実」を「認定」させること

「ポルシェで訪問診療したらその車両費は必要経費になりますか?」と問われたことがあります。もちろん、事実として訪問診療にポルシェを使っていれば経費性はあります。税務上は、軽自動車だから経費計上ができて、スポーツカーだからできないという括りではありません。

税務署と車両の経費性をめぐって争いになるのは税務調査の時です。大半の調査官は「スポーツカーは個人的趣味に由来するものであり経費性は低いはず。ましてやポルシェは……」という前提で車両の使用実態を「証拠」に基づいて厳しく、かつ、詳細にチェックすると思います。

これに対して納税者側は、調査官に、実際に事業で使っている「事実」を「証拠」をもとに「認定」させることができるか否かが勝負の分かれ目になります。スポーツカーは趣味・娯楽としての要素が強く嗜好性が高いため「直接証拠」と「間接証拠」をより一層充実させて税務調査に備える必要があると思います。

また、車両は、医療法人と個人開業医で税務上の取扱いに違いがあります。その点の理解も必要になります。

 

2 車両に係る経費は多岐にわたる

車両に係る経費は下記のとおり多岐にわたります。ある車両を経費化した場合には、車両関係費全般も合わせて経費計上します。したがって、税務調査時の事実認定で「経費性が認められない」とされた場合には、修正申告で多額の追徴税額を支払うことになります。この点、注意が必要です。

● 減価償却費
● 自動車税などの租税公課
● ガソリンなどの燃料費
● 駐車場代
● 有料道路の使用料
● 故障した際の修理代や車両に関連する消耗品代
● 保険料、車検代 など

 

3 個人開業医の場合

個人開業医がポルシェで訪問診療を行っていれば確定申告でその車両に係る費用を必要経費に計上できます。ただし、そのポルシェを家事(プライベート)でも使用する場合には、家事使用部分の経費を「自己否認」して必要経費から外す処理が必要になります。具体的には、その車両の「事業供用割合」を「合理的な基準」に基づき算定し、車両に係る費用にその割合を乗じて経費に計上する金額を決めます。それ以外は家事使用部分にあたるとして生活費の一部という処理をします。

車両に係わる費用 × 事業供用割合(合理的基準) = 必要経費となる金額

事業供用割合を算定する合理的な基準とは何か。難しいところです。様々な基準が考えられますが、一案として「走行距離」を基準に事業供用割合を算定するのはどうでしょうか。車両のメーターパネル付近に数字が表示されますので、証拠能力に優れ、客観性があり、誤魔化すことができません。例えば、以下の方法で「事業上」の走行距離を把握し、これが全体の走行距離に占める割合を算出して事業供用割合を決めることも合理的な方法の一つと考えます。

● 運行記録を記し、走行距離を把握する。
● 診療所と訪問診療先の距離を道順、地図等から合理的に計算して走行距離を算定する。

 

税務調査では「証拠」に基づく「事実認定」がすべてと言っても過言ではありません。特に趣味・娯楽としての要素が強く嗜好性が高いスポーツカーを個人開業医が経費化するのであれば、裁判で争っても勝てる「証拠」が求められます。日頃からの積み重ねで証拠を揃える必要があります。ドライブレコーダーや車載監視カメラ、ETCなどの記録も直接証拠となるでしょうし、訪問診療先の患者や従業員の証言なども証拠となりえると思います。

 

4 医療法人の場合

訪問診療を医療法人の医師がポルシェで行う場合、まず、経費化にあたってはポルシェの名義を医療法人にすることが必要だと思います。所有者は車検証をみれば一目瞭然です。名義が医療法人であれば、その車両は医療法人のものであり社用車となります。社用車に係る経費は100%必要経費(法人の場合は損金といいます)になります。

社用車で税務上問題となるのは医療法人の役員がプライベートで社用車を使った場合の取扱いです。この点について筆者は、プライベートで社用車を使った分の「使用料」を役員が医療法人に支払うようアドバイスしています。使用料の額は「合理的な基準」に基づき決める必要があります。そうでないと税務調査の際、役員に対して経済的利益の供与があったと認定され、通常は「役員賞与」として役員個人に給与所得課税がされます。役員は高額所得者が多いため追徴税額は多額になるでしょう。また、医療法人側では役員賞与は経費計上できません。個人・法人ともに課税されるため「往復ビンタ」となります。医療法上では「剰余金の配当禁止」規定に抵触するおそれもでてきます。

合理的な基準をどのように導き出すか。筆者は一案として、「レンタカー事業者」と同様の基準で使用料の算定をしてはどうかとアドバイスしています。レンタカー事業者と同様であれば客観的に合理性が担保できると思います。レンタカー市場では、ポルシェだけでなくアストンマーティンやフェラーリ、メルセデスAMGなど様々な高級外車がレンタルの対象とされているようです。

それ以外の方法としては、社用車に係る経費の全部を合計して法人が負担するコストを算定し、これを個人開業医と同様に事業供用割合とプライべート使用分での割合で按分して使用料を決める方法などが考えられます。

医療法人の事例ではありませんが、会社が取得した船舶(プレジャーボート)と高級外車(フェラーリ)について、それが役員賞与に該当するか否かで税務当局と会社で争われた事例があります。参考になるので紹介します。

 

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【参考】船舶(プレジャーボート)と高級外車(フェラーリ)の争いについて

(平成7年10月12日 非公開裁決)

〈事案の概要〉

消費者金融業を営む甲社は資金調達先の金融機関の役員接待や従業員の福利厚生目的で船舶(プレジャーモーターボート)を取得した。また、役員の通勤・出張の交通手段として高級外車(フェラーリ)を取得した。これらを会社の資産として計上し減価償却費を費用に計上していた。税務調査で税務当局は、これらの資産は事業の必要上取得したものではなく、同族会社の役員の個人的趣味で取得したものと認められるため、これらの資産は個人資産であり、これらの資産の取得代金を「役員賞与」と認定して課税処分を行った。甲社は、この処分を不服として国税不服審判所に審査請求した。

〈審判所の判断〉

1 船舶(プレジャーモーターボート)について

● 請求人(甲社)は、従業員の福利厚生の一環として本件船舶(プレジャーモーターボート)を使用した旨主張するが、本件船舶については運行事績の記録はなく、また、従業員の福利厚生用資産としての船舶利用規定等の定めもないことから、全従業員が公平に使用できる状況にあるとは認められないから、本件船舶が事業の用に供されたと認めることはできない。

● 本件船舶は代表取締役会長個人の用に供する目的をもって購入されたものとみるのが相当であり、その維持管理費用及び減価償却費を損金の額に算入する行為を容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果になることは明らかであり、減価償却費を損金の額から減算したことは相当であり、また、船舶の取得のために支出した金員については、個人に対し臨時的に経済的利益を供与したことになることから、代表取締役会長に対する賞与と認定した原処分は相当である。

2 高級外車(フェラーリ)について

● 請求人(甲社)は、本件車両については、代表取締役社長が通勤及び支店へ出張する際の交通手段として使用する旨主張するので、社長の出張旅費の支給実績を検討したところ、交通費は支給されていない事実が認められる。原処分庁は、本件車両は事業の用に供された実績が明らかでなく、イタリア製の高級スポーツカーで一般社会常識から見ても個人的趣味の範囲内のものであり、同族会社ゆえにできる行為であると主張するが、そうであるとしても、現実に請求人の事業の用に使用されていることが推認できる以上は、原処分庁(課税当局)の主張を採用することはできず、また、代表取締役社長が請求人とは別に外国製の車両3台を個人的に所有しており、請求人の減価償却資産としていないことを併せ考えると、請求人が本件車両を資産として計上していることを不相当とする理由は認められず、本件車両に係る減価償却費等を損金の額から減算した原処分及び本件車両の取得費等を役員賞与と認定した原処分は、いずれも取り消すのが相当である。

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この裁決では、船舶(プレジャーモーターボート)について納税者の主張は退けられ課税当局が「役員賞与」と認定した課税処分は相当とされています。これに対し、高級外車(フェラーリ)の取扱いは納税者の主張を認めて役員賞与認定を取り消すのが相当としています。ポイントは、裁決の本文に書かれているのですが、通勤などの走行距離が車検を受けるまでの3年間に、7,598キロメートルであることや、別途通勤費の支給もしておらず、個人では外国製の車両(ロールスロイスやベンツなど)を3台所有しており、これらは使用する役員自身が運転していて経費計上していないことなどの証拠に基づく事実認定により「現実に請求人の事業の用に使用されていることが推認できる」点となります。それにより「主として使用する代表取締役社長の個人的趣味によって選定された外国製のスポーツカータイプの乗用車であるとしても役員賞与と認定することは相当ではない」と結論付けています。

 

5 通勤用車両の留意点

多くの個人開業医や医療法人が院長やその親族の通勤用車両を所有しています。この通勤用車両に係る経費を必要経費に計上する場合の留意点は上記に記述した内容と相違ありません。

個人開業医の場合は、「事業供用割合」と「家事使用割合」を合理的に算出して必要経費算入額を決める点がポイントになります。税務調査では、この割合を客観的な「証拠」に基づき算出しているか否かで勝敗が決まります。医療法人の場合には、車両が法人名義であれば社用車という位置づけになります。この点がポイントです。それをプライベートで役員が使用する場合には「合理的な基準」により計算した「使用料」の支払いをするのが良いと筆者は考えています。この場合も「証拠」に基づいた合理的基準で計算しているか否かが勝敗の分岐点となります。

自宅と診療所が離れていて、車両で通勤する場合、「片道のキロ数×2(往復)×年間の診療日数」という算式で概ね通勤に必要な走行距離が把握できます。それを大幅に超えた走行距離がカウントされている場合には、それに対し合理的な説明やプライベートでの使用があれば使用料の精算が必要となります。また、大幅に不足している場合には、「本当に通勤しているのか」という別の視点での疑問が生じます。

車両については、ドライブレコーダーや車載監視カメラ・ETCなどの記録でその利用状況が推測できます。また、領収書等から給油するガソリンスタンドの位置情報も取得できますし給油量により使用頻度もわかります。これらは十分な証拠となります。日頃より、税務調査を意識して、これら証拠の意味するところを理解する必要があると思います。

 

 

 

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税理士・行政書士青木 惠一(あおき けいいち)

税理士法人青木会計(東京都台東区)の代表社員。
(公社)日本医師会・有床診療所委員会委員、(公社)全国老人保健施設協会・社会保障制度委員会消費税対策部会部会員、(公社)日本医業経営コンサルタント協会・税制専門分科会委員長、MMPG(メディカル・マネジメント・プランニング・グループ)副理事長、TKC全国会医業・会計システム研究会会員、(一社)日本医療経営学会評議員、(一社)医療関連サービス振興会評議員など。
厚生労働省医政局委託・医療施設経営安定化推進事業の調査研究の企画検討委員会委員長を務める。

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