【影響大!育児・介護休業法2025改正】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第22回

2024年10月24日

 

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

さて、今年は記録的な暑さが残っていたため秋の訪れが遅れておりましたが、あと2か月もすれば年末が来てしまいます。この時期に気を付けなければならないのが来年の法改正内容です。例年、4月からの改正施行が多いのですが、今回も「育児・介護休業法改正」が確実となっています。企業経営者や事務担当の方は、必ずお読みいただき、自社対応に活かしてください。

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【影響大!育児・介護休業法2025改正】

背景:こども・子育て支援加速化プラン

我が国は急速な少子化と人口減少により、これまでの経済や社会システムを維持していくことが困難な状況になりつつあります。そこで政府は3つの基本理念「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造や意識を変える」「すべてのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する」を踏まえた「こども・子育て支援加速化プラン」を推進することとしています。このプランは①若い世代の所得向上に向けた取組、②全てのこども・子育て世帯を対象とする支援の拡充、③共働き・共育ての推進、の3本柱で構成されており、今回の育児・介護休業法の改正はこの③を実現するための施策に位置します。

 

(1) 所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大【令和7年4月1日施行】

これまで、3歳未満の子を養育する労働者は、会社に請求すれば残業の免除(所定外労働の制限)を受けることが可能でしたが、この内容が「小学校就学前」まで拡大されます。

改正前 改正後
【3歳に満たない子】を養育する労働者は、請求すれば所定外労働の制限(残業免除)を受けることが可能。 【小学校就業前の子】を養育する労働者まで請求可能に(適用拡大)。

今回の改正の中では単純な改正内容になりますが、対象期間が倍増しますので影響は大きいでしょう。

 

(2) 育児のためのテレワーク導入【令和7年4月1日施行】

育児は「養育する労働者が子と実際に寄り添うこと」が理想と思いますが、職場に連れてくるのは現実的に難しい場面が多いでしょう。そこで、今回は「育児を目的としたテレワーク」が新たに法制化されました。

改正後(新規)*ただし「努力義務」
【3歳に満たない子】を養育する労働者がテレワークを選択できる措置を導入すること(努力義務)

今回のプランは「若い世代の所得向上」が目的に含まれていますので、上記のテレワークには「短時間」は含まれていません。あくまで「フルタイムでのテレワーク」という箇所がポイントです(短時間勤務制度とは別物)。

 

(3)子の看護休暇の見直し【令和7年4月1日施行】

これまでの子の看護休暇制度の中身が「対象となる子の範囲」と「取得事由」が拡大されます。

改正前(子の看護休暇) 改正後(子の看護等休暇)
対象となる子の範囲 小学校就学の始期に達するまで 小学校3年生修了まで
取得事由 ・病気やケガをした子の世話
・予防接種や健康診断の付き添い
下記をプラス(詳細は省令)
・感染症に伴う学級閉鎖の子の世話
  ・感染症に罹患(疑い、おそれにより欠席)した子の世話
・入園(入学)式 ・卒園式の参加
労使協定により除外できる労働者 (1)引き続き雇用された期間6か月未満である者
(2)週の所定労働日数が2日以下
・改正前の(1)を撤廃
・週の所定労働日数が2日以下

改正後の「子の範囲の拡大」と「除外できる労働者の減少」の影響もさることながら、取得事由に子の入園(入学)式と卒園式が加わったのが大きなポイントです。注意点として「運動会」等は含まれていません。また、時間単位での取得が可能です。

 

(4)(3歳以上小学校就学前まで)柔軟な働き方を実現するための措置等【令和7年10月1日施行】

仕事と育児との両立、そしてキャリア形成の労働者の希望に応じるため、会社は下記の5つの中から2つ以上を選択し、労働者はその中から1つを選べる仕組みとしました。

改正後(新規)
〇柔軟な働き方を実現するための措置として下記の5つの中から2つ以上を選択して実施

A 始業時刻等の変更  
B テレワーク等(10日/月) 
C 保育施設の設置運営等
D 新たな休暇の付与(10日/年) 
E 短時間勤務制度

〇上記の会社が選択した措置について、労働者に対する個別の周知・意向確認の措置

上記Aはフルタイムで、「フレックスタイム」または「始業終業時間の繰上げまたは繰下げ」の導入などの措置を講じることです。BとDは時間単位で取得可とすることとされていますが、無給か有給かはまだ発表されていません。Eは1日6時間を原則としつつ5時間、7時間の設定、または短縮する曜日を固定、または週休3日とする措置も併せて設定することが望ましいとされています。

 

(5)仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮【令和7年10月1日施行】

従来までの「妊娠・出産時」における個別の意向聴取に加え、子が3歳になる前にも仕事と育児の両立に関して、個別に意向聴取や配慮をしなければならなくなりました。

改正後(新規)
「妊娠・出産の申出時」や「子が3歳になる前(3歳の誕生日の1か月前までの1年間の間)」に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が義務化。

上記の妊娠・出産の申出時には意向(勤務時間帯や勤務地、両立支援制度の利用期間)を確認したうえで、自社状況に応じ配慮しなければならなくなりました。

 

(6)介護護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置【令和7年4月1日施行】

労働者が介護が必要である旨を申し出た際の意向確認及び40歳時点等早期での情報提供等が義務化されます。

改正後(新規)
・(介護が必要な旨の)申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
・40歳等での早期の両立支援制度等の情報提供 
・雇用環境整備(介護休業に関する研修、相談窓口、事例提供、方針の周知)等

なお、子の看護休暇同様、雇用された期間が6か月未満である者を協定によって除外する仕組みは廃止されます。

 

まとめ

今回の改正は大規模かつ複雑です。本格的な施行は来年4月ですが、詳細が未定の項目も多いため、今後の通達発表には注意が必要です。時間のあるうちに、きちんと対応を決めて取り組んでいきましょう。

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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