独立公認会計士インタビュー『わたしの働き方』
株式会社エスプラス 代表取締役 辻さちえ氏
2019/06/06
公認会計士にも様々な進路がある。監査法人はもちろん,組織内会計士や独立開業など,専門性を活かし,広い分野で活躍している。本コーナーでは,独立して個人で仕事をしている公認会計士から,これまでのキャリアや現在の仕事,ワークライフバランスなどを聞く(週刊経営財務No.3324の掲載記事を再掲)。
1 公認会計士+公認不正検査士として
─これまでのキャリアを教えてください。
公認会計士試験には大学4年生の時に合格し,大学卒業後,監査法人トーマツに入所しました。トーマツでは監査業務に9年間,その後コンサルティング部門でアドバイザリー業務に10年間従事しました。
その後独立し,現在は,内部統制や内部監査に関するアドバイザリーに加え,企業や各団体へのセミナーをしています。この6月からは,上場会社の社外監査役にも就任しました。
─公認不正検査士とはどんな資格でしょう。
企業における不正が起こった際の原因究明や,不正を未然に防ぐための組織づくりのお手伝いなどをしています。
私は特に,「不正が起こらないようにするには,どのような組織である必要があるか」ということに力を入れて活動しています。
─それには何か理由があるのでしょうか。
これまでのキャリアの中で印象に残っている出来事として,監査先で不正の現場に立ち会った,ということがあります。その際,結果的にそこの担当者は会社を辞めざるを得なくなってしまいました。
その時の苦い体験から,「不正は誰も幸せにしない。皆が不幸になってしまう。だから,不正を未然に防ぐようにしなければならない」と強く思うようになったことがきっかけです。
─不正の予防には何が必要ですか。
人と人とのコミュニケーションです。例えば,何か不正をしようとしている人がいた場合,日頃から上司がコミュニケーションをとっていれば,「その人が何かしようとしている」ということに気づける可能性が高くなると思います。
基本的に,「元気で明るい」,「風通しがよく,皆が活発で,前向きに取り組んでいる」組織では,不正が起こらないですよね。
2 まずは,監査の仕事を身につけて
─若手公認会計士や公認会計士を目指している方々に,キャリア形成などに関して何かアドバイスをいただけますか。
私は,公認会計士の仕事のベースは,やはり監査にあると思います。若いうちは,「目の前にあることを一生懸命こなす」という姿勢で監査の仕事に取組み,仕事の全体像や監査というプロジェクトをマネジメントする,主任の仕事を一通り身につけることが必要と考えています。
─辻さんは,どのような経緯で独立を決意されたのでしょう。
トーマツでは,節目節目でキャリア設計についての面接があり,その準備のために「自分のやりたい仕事は何だろう」ということを改めて考えました。その結果,「自分は,『不正を未然に防ぐことで,皆が不幸にならないようにする』ということに軸を置いて仕事をしたい」という思いを持ちました。
組織の中で様々なメンバーとチームで仕事をすることも大好きだったので,独立するかどうかは大変迷いましたが,自分のやりたい仕事に全力投球するためには,独立した方がいいのではないかと決心しました。ずいぶん悩みましたので,決心した時はすっきりした気持ちでした。
3 いつも笑顔でいることが大切
─日頃,「働き方」ということについては,どのような思いをお持ちでしょうか。
「人それぞれ,働くスタイルは違う」ということです。私は,独立している公認会計士の方々と,チームを組んで仕事をすることも多くあります。当然,チームは様々な人がいますし,各人の働くスタイルは様々です。
プロ同士の仕事なので,成果をきちんと出せば,働くスタイルやプロセスは問いません。各人が「自分の働き方は自分で選ぶ」という思いを持った上で,最良の成果を出すのが理想です。
─ご自身のスタイルはいかがでしょう。
私は,子供が小学校の低学年ということもあり,どうしても決まった時間に帰宅しないといけません。そのため,日中だけではなく,子供を寝かしつけた後に集中して仕事をしています。
子供がいながらもフルで仕事をしたい,という思いを実現するために,私はこのスタイルを選びました。体力的にはきついですが,仕事も子育ても両方フルに行うことで,精神的にはとても健康な気がしていますね。ただ,このスタイルが誰にでも合うとは思っていません。自分の働き方は自分で選べばいいのです。それができるのが,専門職の利点だと思っています。
─最後に,お仕事で何か心掛けていることはありますか。
「いつも大きな口を開けて笑うこと」です。
笑顔でいると,自然と人とのよいコミュニケーションが生まれ,それがよい仕事につながると考えています。
先ほど,不正予防にコミュニケーションが必要と言いましたが,仕事の様々な局面で,ますますコミュニケーションが大切になってきます。特に若手公認会計士の皆さんにも,それを忘れずに仕事に取り組んでもらえればと思います。
辻 さちえ(つじ・さちえ)氏
1996年監査法人トーマツ入所。会計監査,アドバイザリー業務経験後,2015年独立して株式会社エスプラス設立。
内部統制,内部監査,コンプライアンスに関するコンサルティング業務や企業不正に関するセミナーを実施。
2016年6月 ACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)理事就任(現任)。
2017年6月 (株)シーボン社外監査役就任(現任)。
税務研究会について
当社は昭和22年4月、「納税者と税務当局との架け橋」となることを目的に創設されました。その年の11月には『税務通信』を創刊し、以来一環して「税務・会計分野における的確な情報提供を通じて広く社会に貢献する」ことを企業理念として、サービスを展開しています。
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