企業グループ間取引に係る書類の整理保存の特例
[アクタス税理士法人 News Letter2026.8]
2026/08/24
企業グループ間取引に係る書類の整理保存の特例[News Letter]
令和8年度税制改正において、企業グループ間の取引実態の把握を目的とした制度が創設されました。本制度では一定の書類の整備・保存が求められることから、企業グループ間取引に係る管理体制の重要性が高まっています。また、令和8年6月に公表された国税庁の事務運営指針により、制度に関する考え方や実務上の取扱いも明らかになってきました。今回は、本制度の概要と実務上留意すべきポイントを解説します。
■ 制度概要
国内にある法人(内国法人)が、関連者から受ける一定の取引について、注文書、契約書などから取引内容や価格の計算方法等が確認できない場合には、その確認できない情報(特定事項)を記載した書類(特定事項記載書類)の保存が義務付けられる制度です。対象となるのは、令和8年4月1日以後開始事業年度の取引です。なお、この制度の対象法人が「特定事項記載書類」を保存していない場合には、青色申告の承認の取消事由に該当するため注意が必要です。
■ 対象法人とは
内国法人で関連者から一定の取引を受けた法人であるため、費用を支出した法人となります。
■ 関連者とは
内国法人との間に例えば次のように発行済株式の50%以上を保有する関係や実質的な支配関係がある法人をいいます。なお、関連者には内国法人だけでなく外国法人も含まれるため注意が必要です。

■ 一定の取引とは
内国法人が関連者から受ける①特許権、著作権、ノウハウなど(工業所有権等)の譲渡又は貸付、②一定の役務提供のうち、内国法人側で支出した費用について販売費および一般管理費となるものをいいます。したがって、売上原価等となる商品販売取引は対象とはなりません。また、一定の役務提供には、経営管理・経営指導サービス、研究開発の支援、広告宣伝の支援、共有システムの維持・管理などがあります。
■ 特定事項
企業グループ間の取引では、その企業間の関係性から取引の詳細な資料が作成されないケースが多く、外部から取引の実態を把握することが難しい状況にありました。この状況を踏まえ、国税庁は下記項目で契約書等に記載がないものを特定事項として定め、保存を義務化し取引実態の把握の円滑化を図っています。

■ 作成期限及び保存期間
特定事項記載書類は、取引を行った事業年度の確定申告書の提出期限までに取得、作成が必要となります。また、確定申告書の提出期限から起算して7年間の保存が必要です。
■ 実務上のポイント
特定事項は、複数書類により把握できれば問題ないため、ひとつの書類への集約は不要です。また、既存の契約書等から特定事項が確認できる場合は、追加の特定事項記載書類の取得又は作成は不要です。
この制度の目的は取引実態の把握であることから、取引価格が適正か否かについてまで問われるものではありません。したがって、特定事項記載書類等にその内容を記載する必要はありません。
■Q&A
Q1.関連者の範囲のうち、実質的支配関係とありますが具体的にどのような状態でしょうか?
A: 実質的支配関係とは、持株関係がなくても、関連者が内国法人の経営や事業に大きな影響を与えている状態をいいます。
例えば、次のような取引が該当します。
・国内にある法人の役員の50%以上を関連者の役員が兼務している場合。
・国内にある法人が行う事業活動の相当部分を関連者に依存している場合。
・国内にある法人の事業活動に必要な資金の相当部分を関連者から借り入れしている場合。
なお、関連者に該当するか否かの判定は、対象取引が行われた時点の状況に基づいて判断します。
Q2. 一定の役務提供の中に、関連者間で行われる資産の賃貸借取引は含まれますか?
A: 企業グループ間で行われる資産の賃貸借取引のうち、賃貸人と賃借人の双方が事業の用に供することを目的としたものが対象となります。そのため、賃貸人が使用している資産の一部を賃貸する場合は対象となりますが、資産の全部を賃貸し、賃貸人自身が使用していない場合は対象となりません。
例えば、親会社が自社の事業に使用している不動産の一部を子会社に賃貸するようなケースや自社で開発し利用するシステムを関連者に賃貸する取引が一定の役務提供に該当することになります。
Q3.特定事項記載書類をデータで保存することは可能でしょうか?
A: 特定事項記載書類を電子データで保存することは可能です。ただし、メール等の電子データにより受領した特定事項記載書類は、電子帳簿保存法に従い電子データのまま保存する必要があります。
また、紙で受領又は作成した特定事項記載書類についても、電子帳簿保存法の要件を満たす場合には電子データで保存することが可能です。
Q4.特定事項記載書類の保存をしていなかった場合、直ちに損金算入も認められなくなるのでしょうか?
A: 特定事項記載書類の保存義務は、対象となる取引の損金算入要件とはされていません。そのため、書類が保存されていない場合であっても、そのことのみを理由に直ちに損金算入が否認されるわけではありません。損金算入の可否は、取引の内容や事実関係を踏まえ、総合的に判断されます。
Q5.税務調査において書類の不備が判明した場合、直ちに青色申告承認の取消がされるのでしょうか?
A: 国税庁は、税務調査において特定事項記載書類の保存がないことのみをもって、直ちに青色申告の承認が取り消されるものではないとの考え方を示しています。税務調査時に特定事項記載書類の保存がないことが判明した場合には、一定期間を設けた上で、当該書類の取得又は作成および提示を求められることがあります。青色申告承認の取消しの判断は、保存状況や是正への対応状況を踏まえた上で、その違反の程度やその他の事情を総合的に勘案して行われます。
Q6.企業グループ間取引において、書類整理保存の特例のほかに気を付けるべきポイントはありますか?
A: 企業グループ法人間の取引については、取引条件や価格設定の妥当性にも注意が必要です。取引価格が第三者との取引条件と比べて著しく異なる場合には、寄附金課税等の問題が生じる可能性があります。また、国外のグループ法人との取引については、一定の場合に移転価格税制に基づくローカルファイルの作成が必要となります。
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