M&Aにおいて将来設備投資や老朽化設備を巡る価格交渉のポイント[LBPコラム]

~将来設備投資(特に老朽化装置)が価格交渉のポイントとなる背景、価格交渉において将来設備投資は4類型に分けて考える、将来設備投資に関連する買い手側の交渉のポイント、将来設備投資に関連する売り手側の交渉のポイント~

M&Aにおいて将来設備投資や老朽化設備を巡る価格交渉のポイント

[LBPコラム]

 

M&Aにおいて、老朽化している設備の将来における停止リスクは、交渉上の大きなポイントになります。
場合によってはリスク負担の交渉が折り合わず、ディール自体がブレイクしてしまうリスクも含んでいます。
今回は、その様な交渉論点に立ち向かうため、将来設備投資に関する論点整理と、それを踏まえた買い手・売り手両方の目線から交渉のポイントを解説します。

 

 

 

 

目次

1.将来設備投資(特に老朽化装置)が価格交渉のポイントとなる背景
2.価格交渉において将来設備投資は4類型に分けて考える
3.将来設備投資に関連する買い手側の交渉のポイント
4.将来設備投資に関連する売り手側の交渉のポイント
5.最後に

 

 

1.将来設備投資(特に老朽化装置)が価格交渉のポイントとなる背景

M&Aの譲渡価格は、将来キャッシュ・フローに基づく評価方法(DCF法)や類似業種を参考にしたマルチプル(倍率)に基づき事業価値を算出し、そこから余剰資産や有利子負債等を調整する方法により算定される事が一般的です。

参照コラム:会社売却に相場はあるのか?~M&A時における株価算定方法の解説~→

 

これらの算定方法の中で、将来必要と予見される設備投資をキャッシュ・アウトあるいは有利子負債類似項目としてどの範囲までを織り込むかは、譲渡価格の決定に直接的影響を与えます。

その一方、そこまでの将来投資を含むかという範囲の決定方法に明確なルールはなく、個別ケースごとに当事者間で折り合う必要があります。

既に確定している数年内の維持更新投資なら兎も角、「古くて壊れそうだが当面は動く機械の入れ替えは必要なのか?」や「成長に必要な追加投資の負担はどうするか?」などは議論の種となりがちです。

 

 

 

2.価格交渉において将来設備投資は4類型に分けて考える

将来設備投資は、通常の維持更新投資含め4つのグループに分け、個別に売り手・買い手間で議論する必要がありますので、それぞれのグループと、価格算定上の考え方の指針を紹介していきます。

特に2-②、2-③については争点になりやすく、慎重に理屈を構築する必要があります。

 

 

2-① 近々に入れ替えないと操業継続困難、または刷新実施が確定している設備

老朽化等の影響で入替が確定している設備投資予定額は、価格算定上は将来のキャッシュ・アウト項目や有利子負債類似項目として考慮に含めることが一般的と考えられます。

このグループについては、既に決定している内容であるため、双方の議論の余地は少ないと予想されます。

 

 

2-② 当面は動くが老朽化が著しく、停止すると事業上大きな影響が出る設備

このグループは、老朽化しているものの今後も当面は使用可能であることから、リスクや入替コストなどを巡り売り手・買い手間で最も議論となります。

買い手としてはこれらの分まで売り主に負担してほしい(=譲渡価格から差し引いてほしい)ところです。逆に売り手としては事業上のリスクとして買い手に飲み込んでほしいところです。

現実問題として機械が壊れる将来のタイミングを予見することは不可能ですので、負担主体決定の方向では議論が紛糾してしまいます(このような紛糾を避けるための具体的な交渉ポイントは次のセクションで述べます)。

 

 

2-③ 将来的な成長に必要となる設備

今後の成長に必要な設備投資(例えば性能強化やキャパシティ増強等)は、その価格の負担主体(売り手負担として買収価格から控除するべきか否か)で議論になる可能性があります。

この場合、機械の価格こそ把握可能かもしれませんが、どの程度キャッシュ・フローに影響を与えるかは測定困難であり、価格交渉議論の中心とするのは避ける必要があります。

そもそも成長のための設備投資に関しては、機械投資本体のキャッシュ・アウトの他、投資によるキャッシュ・イン増加効果があるはずです。

よって、最終的に将来キャッシュ・フローはプラスに作用するはず(プラスにするのは買い手の責任と言えます)であり、この機械の購入M&A価格のマイナス要素として織り込むのは理屈的には厳しいという点を踏まえ交渉を進める必要があるでしょう。

 

 

2-④ 通常の維持更新投資

上記以外の通常の維持更新投資が該当します。この区分の拠出予想を価格決定論拠となる将来キャッシュ・フローに織り込むことは、売り手・買い手双方とも違和感はないでしょう。

 

 

 

3.将来設備投資に関連する買い手側の交渉のポイント

以上の前提を踏まえて、将来設備投資に関する交渉のポイントを、まずは買い手の目線から解説します。

 

 

3-① 将来必要な設備投資の区分(上記2-①~④)を慎重に見極め、売り手の主張を記録として残す

上述した通り、設備更改が確定しているのであれば、将来のキャッシュ・アウトとして織り込むべきですし、そうでない場合は売り手との交渉上減額の材料とすることは困難です。

売り手からのヒアリングや質問書の内容を慎重に記録し、将来必要な設備投資をそれぞれ上記2-①~2-③のいずれに該当するかを慎重に見極めます。

その上で、売り手との交渉の中で適切に売り手負担分を主張していくことが必要となります。

 

 

3-② 現有機械の動作保証を譲渡契約に盛り込む(上記2-②区分の対策)

特に老朽化設備が存在するものの、売り手が喫緊の更改を要しないと主張する場合、数年間の継続動作保証を譲渡契約に盛り込むことを検討します。

具体的には、保証期間内に設備入替や過去の修繕費水準を逸脱する修繕が必要となった場合に売り手が当該必要額を支払う旨を譲渡契約の表明・保証に盛り込みます。

期間としては1~3年程度の提示が一般的ですが、売り手との距離感や交渉経緯を踏まえて具体的な希望期間を伝えましょう。

 

 

3-③ 機械破損による事業停止リスクをWACCやマルチプル倍率の中にリスク項目として織り込む(上記2-②区分の対策)

譲渡契約における保証を取り付けたとしても、製造業に投資を行う以上、機械破損による事業停止リスクから免れることはできません。

そのようなケースが生じ得る機械(主要かつ老朽化している設備)が把握された場合、WACC(加重平均資本コスト)やマルチプル倍率の調整により、売り手に明示せず間接的に減額要素として盛り込むことが検討されます。

もちろん買い手の論理として直接的な減額要素(買替に必要な額を譲渡価格のマイナス要素とする)として盛り込むことも検討されますが、上述の通り売り手としては納得しにくい場合が多いのが現実です。

そこで内部説明と対売り手交渉を両立させるため、ここで解説した手法が有力となると考えられます。

 

 

 

4. 将来設備投資に関連する売り手側の交渉のポイント

同様に、今度は売り手目線から将来設備投資に関する交渉ポイントを解説します。

 

 

4-① 現有装置の継続使用可能性を把握し、必要に応じて記録を残す

老朽化装置が譲渡後早々に機械が破損・停止するなどにより事業上損失となると、売り手の事前説明責任を問われ、補償支払などに発展する可能性があります。

交渉に臨むにあたりあらかじめ機械の状態を把握し、必要に応じて何らかのメモ(記録)を残すこと、必要に応じて適切に買い手に状況を開示することなどの対応は行う方が望ましいと言えます。

 

 

4-② 買い手に投資者としてのリスク許容を求める(上記2-②区分の対策)

本来、株式・事業投資にはリスクは付きものです。買い手の立場としてはリスク回避を考えるのは当然ですが、本来事業者として負うべきリスクも含めて売り手に負担を求めるのは筋違いと言えます。

「今後壊れるかもしれない」という不確実な予想は事業リスクとして買い手が負担するべきですが、議論の流れで売り手負担とさせられないよう注意して交渉を進める必要があります。

 

 

4-③ 機械の継続動作保証を求められた場合、保証期間の短縮交渉を行う(上記2-②区分の対策)

譲渡契約の中に、一定期間の現有機械の動作保証を求められる可能性があります。

通常は1~3年といった期間限定の保証となりますが、買い手によっては永続的な保証といった売り手に不利な条件を織り込んでくる可能性があります。

売り手としては有限期間とするのは当然のこと、保証期間についても極力短くなるよう慎重に交渉を進めましょう。

 

 

4-④ 「将来成長のための投資」名目の買い手の減額主張に適切に反論(上記2-③区分の対策)

将来成長のための設備投資を売り手が負担する(価格減額の根拠として受け入れる)ことは、その投資によって増加する将来キャッシュ・インフローを無視していることになります。

理屈として気づきにくい点ですので、買い手側の主張をうっかり鵜呑みにしないように注意する必要があります。

 

 

4-⑤ 売却検討中・交渉期間中の将来成長投資の実施には慎重を期す

上述の通りM&Aの譲渡価格は将来キャッシュ・フローに基づいて行うのが通常です。

そのような中で、将来成長の実現可能性が第三者から理解されにくい戦略投資を行うと、その可能性が適切に評価されず、投資した分だけM&A上の価値を下げてしまう可能性があります。

第三者譲渡(=第三者に会社や事業の将来を委ねること)を検討しているフェーズなのであれば、そのような成長投資は買い手の判断に任せるべきということでしょう。

よって、売り手としてはそのような挑戦的投資はいったん控え、現状維持で譲渡先を検討した方が交渉はスムーズになると考えられます。

 

 

 

5.最後に

M&Aにおける価格決定は、交渉全体の中でも最も難易度が高く、冷静かつ的確な判断に基づく対応が求められます。

今回取り上げたような、財務面からの緻密な検討を要する論点に対応可能な点も、会計・税務の専門家が多数所属する当社の特徴となります。

M&A手続きにおいてお困りの点がある場合、あるいはご質問やその他ご相談等がございましたら、弊社問い合わせフォームまでお問合せいただけますと幸いです。

 

 

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解説:堺康行 ロングブラックパートナーズ株式会社 アライアンス・パートナー

国内大手システム・インテグレーターにおけるIT関連業務の経歴を経て、LBPに入社。
LBPでは仲介、FA、財務デュー・ディリジェンスの各業務で実績があり、過去経歴を生かしたIT・技術者派遣業分野におけるM&A案件に強み。
2020年より独立し、現在はアライアンス・パートナーとしてLBPと協業するとともに、独自でITプロダクト開発と金融財務に関するコンサルティング及びWebメディア事業を運営。

運営メディア:https://docs.sakai-sc.co.jp/
会社ホームページ:https://www.sakai-sc.co.jp/

<主な事業領域>
・IT業界
・人材派遣業界

東京工業大学生命理工学部卒業

 

 

 

ロングブラックパートナーズ株式会社とは

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