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経理DXとは?

1.DXの意味


DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略称です。

DXのうち、Dはデジタルの略で、Xはトランスフォーメーション(Transformation)を省略した標記です。英語でTrans~という単語は、省略するときにXという表記をするので、デジタルトランスフォーメーションの略称がDXとなっているのです。

トランスフォーメーションは日本語では、変革や変化という意味ですが、DXは端的に言うと、IT技術などのデジタルを活用して社会に変革をもたらすことと言えるでしょう。

そのように考えると、「経理DX」は、経理業務において様々なIT技術を活用して、今までの業務の進め方を改善・改革して、効率化や生産性の向上を図ることと定義づけられると考えます。

また、DXのDであるデジタルに関して、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」という区分もあります。

「デジタイゼーション」は、日本語では電子化に近しいもので、紙の書類を電子化するような業務改革が例として挙げられます。

これに対して「デジタライゼーション」はデジタル情報をもとに作業を自動化していくイメージで、この場合は、そもそも業務の前提が紙ではなくデータのみということが想定されています。こちらの方は、デジタル化という表記で使われるものと言えます。

将来的に目指すべき形は、デジタライゼーションではあるでしょうが、経理DXの現場においてはデジタイゼーションに相当するものも多いです。一足飛びに全てが解決して行く訳ではないということもあり、本編ではデジタイゼーションも前提とした経理DXについての解説もしていきます。

2.なぜ経理DXを進めなければいけないのか


経理DXという言葉は、経済誌や新聞等でもよく目にするキーワードとなっていますが、経理DXが求められる背景や経理DXを進めたうえで何を目指すのかを考えて推進していくことも重要です。

まず、経理DXのゴールを考える前に、我が国の現状の認識をしてみましょう。

昨今は、新しい資本主義というキーワードのもと、賃上げを進めて経済の好循環を図ることが志向されています。賃上げを継続的に進めていくためには、生産性の向上を図ることが肝要となってきますが、現状はどうでしょうか。

2022年のOECD統計データによると、時間当たり生産性に関して、OECD加盟国38カ国中で日本の順位は27位と下位の方に属しています。日本よりも人口が多い米国は7位に位置していて、日本は米国の6割程度の時間当たり生産性となっています。そして、G7の中では、残念ながら最下位に位置しています。

この統計から、日本の生産性は先進国の中で低いということはもちろん読み取れますが、上位の国々が多くあるということは、逆に言えば、まだ生産性を向上させる余地があると前向きに考えることも可能です。

そこで、経理DXを活用する出番があるのです。

3.具体的に何をどう取り組むべきなのか


次に、「経理DXを進めよう」といった場合に、具体的に何をどう進めていくべきか。ということについて考える必要がありますが、基本的にITツールを活用して進めることになります。

経理DXで主に活用されているITツールとしては、次のようなものがあります。



クラウド型システム
インターネットを通じて、ソフトウェアやデータのサービスを利用できる仕組みです。インターネット回線が使えれば、あらゆる場所からシステムにアクセスできるので、労働力の多様化にも貢献します。

API連携
アプリケーション・プログラミング・インターフェース(Application Programming Interface)の略称ですが、アプリケーション間やシステム間でデータ等を連携する仕組みです。経理業務では預金取引のデータをAPI連携を活用して会計データとして取り込むといった利用シーンがあります。

AI-OCR
光学文字認識機能であるOCR(Optical Character Readerの略称)と人工知能(AI)技術を融合させた機能をいいます。経理の現場では、紙の領収書や請求書をAI-OCR機能を活用して読み取りを実施することで、仕訳等のデータ化がされます。読み取りの精度もAIが学習をすることで上がってくるので、繰り返し実施することで生産性の向上に寄与することになります。



上記はあくまでも一例で他にも様々なITツールやサービスが提供されていますが、推進にあたっては、生産性の向上を図るという目標は忘れないようにしましょう。

4.コスト意識を持つことは必要

様々なサービスやプロダクトを活用して進める経理DX化にはメリットは多いですが、留意しておくべき点もあります。

システムの選定を間違えれば、改めてシステムを選び直す必要があります。当然、導入コストは二重にかかりますし、設定のための時間も余分にかかることになります。

クラウド型システムの話に触れましたが、最近では基幹の会計システムのほか、経費精算システム、人事管理システム等多くのクラウドシステムがリリースされています。

システム変更にかかるコストのことをスイッチングコストと言いますが、実感としてはクラウドシステムの導入が少ない時代と比較してスイッチングコストは下がってはきていると思います。ただ、一度選定するとなかなか他社製品に切り替えるのは面倒だし、困難という面もあります。

例えば、経費精算システムを導入し、電子帳簿保存法対応をはかった場合、少なくとも7年間はデータの保管が必要になります。仮に、他社製品に切り替えるとなると新しいシステムを利用しつつ、過去の保存データは切り替え前のシステムで保管が必要になるケースが多いのでコストがダブルでかかる(閲覧だけのために廉価で設定されているケースもありますが。)ことになります。

そのため、システムの切り替えが困難ないわゆるベンダーロックイン状態になってしまう可能性もあるのです。クラウドシステムの場合、導入時のコストがそれほどかからない分、軽い気持ちで導入に踏み切ることもあるかもしれませんが、将来切り替えが可能か、可能な場合でもどの程度のコストがかかるのかといったことを導入前に検討することも重要です。

経理DXのゴールの一つが生産性向上であるということを勘案するとコストの妥当性について考えることも、経理DXを進める際におさえておくべきポイントの一つです。

執筆者:公認会計士/税理士 中尾 篤史


CSアカウンティング株式会社  代表取締役社長 
日本公認会計士協会 租税政策検討専門委員会 専門研究員

上場企業グループから中堅・中小企業まで幅広く経理・人事のアウトソーシング・コンサルティング業務に従事。
著書に『経理業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)活用のススメ~新しい経理部門が見えてくる50のポイント~』、『DX時代の経理部門の働き方改革のススメ』、『瞬殺!法人税申告書の見方』(税務研究会出版局)、 『正確な決算を早くラクに実現する経理の技30』、 『BPOの導入で会社の経理は軽くて強くなる』(共著)、 『対話式で気がついたら決算書が作れるようになる本』(共著)、 『経理・財務お仕事マニュアル入門編』(以上、税務経理協会)、 『たった3つの公式で「決算書」がスッキリわかる』(宝島社)、 『経理・財務スキル検定[FASS]テキスト&問題集』(日本能率協会マネジメントセンター)、 『明快図解 節約法人税のしくみ』(共著、千舷社)など多数。

≫HP:CSアカウンティング株式会社

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