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ペーパーレスとリモートワーク

1.リモートワークにはペーパーレス化が必須


コロナ禍が、私たちのライフスタイルを変えたことのひとつに、リモートワークが広範な業種や職種で拡がったことを挙げることができるでしょう。

以前は、育児や介護といった事情がある人しか適用がされていなかったリモートワークが、特別な事情を抱えていなくてもリモートワークを可能とした会社も多く出現し、多様な働き方が実現してきています。

なかでもホテルや飲食店のようにリアルでの接客を前提としている業種では対面での対応が前提となっていて、リモートワークとは縁遠いように感じますが、それでも多くの職種でリモートワークが導入されています。

それでは、職種の中でも経理職でのリモートワークの普及はどのような状況でしょうか。

この点については、会社の取り組みによって差が生じてきているというのが実感です。

会社で利用している各種システムへのアクセスについては、クラウド型のシステムが普及していることもあり、自宅等の社外からアクセスできる環境を整備している会社は多くなっています。

ただ、経理部門でのリモートワークの壁となっているのが“紙の書類”です。

取引先からくる書類や自社が発行する書類などに関して、紙を前提としている会社もあり、そのことがリモートワークの阻害要因となっているのです。

もちろん紙の書類を自宅に持ち帰ることで、家で作業はできます。

しかし、セキュリティ意識が高い会社で紙の書類を自宅に持ち出すことを当然に許可している会社はありません。経理部門が扱っている情報は、インサイダー情報もありますので、持出厳禁というのが原則でしょう。

そこで、経理部門でのリモートワークを推進していくために、まず考えるべきことは、ペーパーレスで仕事ができる仕組みを実現することなのです。

2.発行請求書はペーパーレス化が主流になるか


経理部門での主な業務の一つである発行請求書について考えてみましょう。

紙の発行請求書が前提の場合、次のような理由から出社が前提となってしまいます。

① 請求書を出力するために出社が必要
② 発行した請求書を投函するために出社が必要
③ 発行済みの請求書を保管(外部倉庫含む)するために出社が必要

会計システムと販売システムの連携がなされていない場合は、発行請求書控えと会計システムの計上金額や残高を照合するために出社するといったケースもあり得ます。

このような紙文化から脱却して、経理DXを実践し、ペーパーレス化が実現されると仕事はどう変わるでしょうか。

請求書発行のシステムに外部からアクセス可能であれば、リモートワークで請求データの作成や確定をすることが可能となります。

次に請求書の発行ですが、データそのものを取引先と共有する方法もありますし、紙で発行していた請求書を専用のURLからダウンロードできるようにする方法で共有する方法もあります。経理DXのゴールをデジタライゼーションという視点で考えると前者の仕組みが望ましいでしょうが、現実的には後者の方法でまずはペーパーレス化を進めるというケースも多いです。

請求データの保存に関しても電子データで保管すれば出社の必要はなく、リモートワークで実施可能です。

このように発行請求書の業務に関しては、自社が起点となるのでペーパーレス化が進めやすいです。

もちろん、実務的には請求書を受け取る側から、「紙で送付してほしい」というリクエストがある場合には、それに対応せざるを得ませんが、多くの会社が請求書発行のペーパーレス化の流れに乗ってくると紙の送付を依頼してくる会社も減少することが想定されますので、発行請求書に関してはペーパーレスが主流となってくる可能性があります。

3.リモートワーク以外にもペーパーレス化には多くの効果が


リモートワークに有効なペーパーレス化ですが、それ以外にも効果があります。
発行請求書を前提とすると次のようにコストメリットを多く享受することができます。

① 紙代の削減
印刷が必要なくなりますので、当然紙を準備する必要がない分、そのコスト負担がなくなります。

② 印刷代の削減
印刷のためのインク代のコストが不要になりますし、プリンターを使わない分消耗も減って、プリンターの使用可能期間が延長することも期待できます。

③ 郵送代の削減
郵送をする必要がなくなるので、切手代等の郵送代の削減が可能となります。送付先が多い場合コスト効果も大きくなります。

④ 人件費の削減
封入作業や投函作業に時間を要していた場合、その分の時間が大幅に削減されます。もちろんシステムを使って請求データを共有するための時間は新たに発生することになりますが、封入作業等と比較すると激減することが一般的です。

もちろん、請求書のペーパーレス化を実践するには、システムの導入が必要となります。

そのため、導入されるシステムのコストは、上記のコストメリットを超えない範囲であることが望ましいです。

ただ、経理DXを進めることによって、ルーティーンワークから解放されたり、作業時間が削減されたりすることで、より難易度の高い業務を実践することが可能となり、働く人がやりがいや成長を感じることができればコスト以上のメリットを享受できていると考えることができます。

4.受取請求書をペーパーレス化にどう変えていけるか


発行請求書と比較して、ペーパーレス化が遅れているのが受取請求書のペーパーレス化です。

発行側と違って受取側なので、基本的には受け身とならざるを得ず、自社主導で実施することが難しい面があります。それでも以下のように新たな手法を導入してペーパーレス化を推進する動きもあります。

① 紙で受け取った請求書をスキャンして、スキャンデータをワークフローシステム等に乗せることで、その後の工程がペーパーレスとなるようにする

② スキャンデータを電子帳簿保存法のスキャン保存の要件に適合するようにして、データで保存することで、紙の保管をなくす

③ AI-OCR機能が実装されているシステムを利用してスキャンすることで、金額等の会計システム登録上に必要な情報をデータ化させて業務効率をあげる

④ 外部ベンダーに紙の書類を送付あるいは取引先から直送してデータ化までしてもらうことで、自社では紙に触れずに業務を遂行する

発行する側が紙ではなくデータで情報を提供するようになればこれらの作業もなくなるので、ゆくゆくはそのような業務フローが日本全体で構築されることが生産性の向上につながると思いますが、まだ時間がかかりそうです。

このように、まだ受取側の請求書については、完全なペーパーレス化には時間がかかりそうですが、時代とともに新たな手法が出てきていますので、試行錯誤を重ねて自社にとって有益な手法を適用するようにしましょう。

執筆者:公認会計士/税理士 中尾 篤史


CSアカウンティング株式会社  代表取締役社長 
日本公認会計士協会 租税政策検討専門委員会 専門研究員

上場企業グループから中堅・中小企業まで幅広く経理・人事のアウトソーシング・コンサルティング業務に従事。
著書に『経理業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)活用のススメ~新しい経理部門が見えてくる50のポイント~』、『DX時代の経理部門の働き方改革のススメ』、『瞬殺!法人税申告書の見方』(税務研究会出版局)、 『正確な決算を早くラクに実現する経理の技30』、 『BPOの導入で会社の経理は軽くて強くなる』(共著)、 『対話式で気がついたら決算書が作れるようになる本』(共著)、 『経理・財務お仕事マニュアル入門編』(以上、税務経理協会)、 『たった3つの公式で「決算書」がスッキリわかる』(宝島社)、 『経理・財務スキル検定[FASS]テキスト&問題集』(日本能率協会マネジメントセンター)、 『明快図解 節約法人税のしくみ』(共著、千舷社)など多数。

≫HP:CSアカウンティング株式会社

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